お金がほしい

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2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

改札口のラストランナー

かつて僕はこのような記事を書いたのだが、

ex-finprethe.hateblo.jp

早いものであれから10ヶ月が経過した。この頃から既にネタ切れの話をしているとは驚きだ。それでもこうして続いてしまっているわけだから「ネタ無い無い詐欺」じゃないかという疑いもかけられてしまいそう。でも割と深刻なんです。

さて話は戻って、読者の皆様は相も変わらず僕がトップ通過を持続し続けているに違いないという期待を抱いてくださっているかもしれないが、非情なことに時代は変化するものである。

端的に申し上げると、ここのところ1ヶ月近く、僕はいまだ改札口をトップ通過を果たしていないのだ。

どうぞ不甲斐ない僕を笑ってください。
この体たらくぶりを罵ってください。

でもどうしてもダメなんです。
調子が悪いというよりは、調子が狂ったという表現のほうがいいかもしれない。

ただ、ボクシングと同じで1位の座を守り続けるというのはそう簡単にできるものではなく、王座の位に踏ん反り返っているだけではいつの日か足元をすくわれてしまう。
つまり、血の滲むような日々の鍛錬があってこそ、彼は王座たりうる資格を有するのである。


だが僕は3月から4月の間、それまでと比べて電車に乗る機会が急激に減ってしまった。
つまり大きなブランクが生じた。

その隙に彼らは研究と特訓を重ね、ふと気付いたときには僕を追い越して、今では手の届かない遥か上空に君臨している。


そんな相手を前に王座の地位を防衛するなど、到底不可能だった。
僕は潔く王座の位を第三者に譲り、そこから僕の転落人生はスタートした。


でも僕だってこの1ヶ月、ちゃんと努力したんだよ。
出口の位置や車両の長さ、更には時間別傾向まで加味したデータを基に階段に最も近いであろう乗降口を推定し、ただひたすらに「その時」を待った。

だが結果はことごとく失敗。
無念にも敗れ去った男の背中には、丸みを帯びた哀愁と寂寥感だけが漂っていた。


そのうち僕は、「もう諦めようかな」と思った。
ここらが潮時なのではないかと悟った。

パトラッシュ、僕はもう疲れたよ。なんだかとっても眠いんだ。

そうして天からの迎えが来るのを待つだけの日々。そんな毎日は意味も理由も、ましてや希望さえも失ったモノクロの世界。

悲しかった。辛かった。
でもどうしようもなかった。どんなに知恵を絞ろうと努力を重ねようと、絶対に越えられない壁がいつも直前で僕を嘲るのだ。

僕は疑心暗鬼になった。
アンケート調査の「誰かが私を陥れようとしている。」の項目に、うっかりチェックを入れそうになった。


物事には始まりがあれば終わりがある。
スポーツ選手が、芸能人が、ミュージシャンが自ら引き際を決めるように、ここらで退くのが賢明ではないかと思いはじめていた。

 

だがそんな暗澹たる日々を過ごしていた時。

何も考えずに乗った電車で、どういう因果だろうか。降車駅に着くと、目の前にあったのは階段。
あれほどまでに僕が追い求めた階段が、ついに目の前にやってきたのだった。


僕は驚いた。
何回も何回もアプローチを変え、手を変え品を変えてもうまくいかなかったのに、こうもあっさり正解を見つけてしまった。

そして何よりも驚いたのは、その正解というのがこれまでの計算では絶対にたどり着けない場所であったことである。


その日僕は数ヶ月ぶりに改札口を一位通過し、トップという甘美な響きと栄光と誇りを取り戻した。

そして誓った。
「もう逃げない」と。


それからの日々は再び特訓の毎日である。

これまでと同じアプローチをしていては絶対に正解できない。もっと別の角度から、別の切り口から正解を導き出せるような、そんな方程式を見つけるのだ、と。

そしてようやく、僕はあることに気付いた。
「出発駅で推測し、途中駅で補正すればいいんじゃね?」と。


つまり、出発駅では出口を予想した車両に乗り込む。そこまではいつも通りだ。
そして出発駅から降車駅までは間が2駅あるので、その間により精度を高めればいいのではないかという戦略。

これまでは計算の範囲を出発駅だけに留めていたが、そこを拡張し正解に近づけようとしたのだ。
この男、冷静である。


出発駅で降車駅の階段位置を推測するのは、時間によって車両の長さが違うこともあるので困難を極める。
だが途中駅で停車する位置とその扉の位置は、どの駅であろうと同じ場所になる。

要するに降車駅の階段位置前に停まる車両は途中駅の停車位置から推測可能であるということ。ちょっと何言ってるか分からないよね。


まぁ例えば、降車駅で降りたい場所を地点Aとする。
その地点Aを乗車する段階で推測しようというのがこれまでのセオリーだったわけだが、それがここ数ヶ月で困難になった。

そこで利用するのが「車窓」だ。
地点Aで降りるための扉は、途中駅で停車するとき目の前に自動販売機が見える。これが目印になるという算段だ。

つまり途中駅で停車した時点で、目の前に自動販売機が見えていればそこが正解。
もし見えていなかったらその位置まで移動すれば良いだけのこと。

先述したように2駅間の相対位置は固定されているので、目印が指標として機能しないことはないのだ。


これまでの前提を覆すような作戦により、僕は見事完全復活を遂げた。

ここで幾人の心の中に「どうしてそこまでするのか」という疑問がふつと湧いたかもしれない。
ならば答えておこう。

 

 

暇だからである。