お金がほしい

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2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

2019年7月7日(日) エレファントカシマシ 日比谷野外音楽堂 セトリと感想

ライブレポートではなく感想、というより雑感です。
個人的な備忘録メインなので、読みづらい点等は悪しからず。

日比谷野外音楽堂
2019年7月7日(日)
席種:立見

 

↓セットリストは以下のサイトからお願いします↓

dailysetlist.net

 

第1部

1.シグナル

初日のセトリを見たい気持ちをどうにか我慢して向かったので、「1曲目は何だろうか」とワクワクとドキドキとロマンティックが止まらなかった。
なので、この曲の前奏が耳に入った瞬間びっくり。

野音と言えばシグナルみたいなイメージもあるけれど、1曲目なんて完全に想定外です。ちゃんと調べてないけど、初めてじゃないのかな。
こんなことになるなら、ちゃんと心の準備をしておけばよかったぜ。


2.愛の夢をくれ

これもビックリ。なんと20年ぶりの演奏らしい。貴重すぎる。

半年ほど前の新春でも思ったが、アルバム「愛と夢」や「ライフ」はタバコをやめた今の宮本さんが歌うと伸びがすごいので、かなり映える。


そしてアウトロにて、謎の(いつもどおりの)「ははっ」という大笑いが発生。目が笑ってないんだよなぁ。怖えよ。

大音量で「あっはっはっは」と言うものだからついこちらもつられて笑ってしまうが、よくよく考えればここは公園。
コンサートに関係のない通行人がこのタイミングで狂気の笑い声を耳にした場合、どう思ったのだろうか・・・ということは、敢えて考えないようにしておくのが吉。


3.孤独な旅人

丁寧に歌っている印象。
声は前日もあったためか若干、本当に僅かながら掠れているものの、かなりよく出ている。

この曲か次の曲か忘れたが、細海魚さんがヘドバンしながらキーボードを叩いていたのが印象的。
・・・印象的なのに忘れてるよコイツ。


4.明日に向かって走れ

めっちゃ嬉しい。
この曲の大サビが特に大好きで、1週間前あたりから心の奥底で「やってくれないかなぁ」なんて思っていたので欣喜雀躍。

この曲はめちゃくちゃキー高いはずだし、前日も全力で歌っていたはずなのに、なんという声量、音域。
フッ...あんた最高だよ。


5.面影

なんたる至福。たまらん。流れが完璧すぎてニヤニヤが止まらない。

正直なところ、こういった曲を歌う宮本さんの声が一番好きで、きっと10年後もこの曲は美声で歌っているだろうな、と想像がつく。


野音=エピックというイメージがあったが、ここまでポニーキャニオンとEMIで来ており、このあたりから「おや、おかしいぞ?」と思いはじめる。どうでもいいか。


6.こうして部屋で(以下略)

この曲の直前、まるでスタッフかのようにしれっと蔦谷好位置さんが登場し、会場が気づいて拍手。どうやら前日も参加したみたいですね。

この曲が収められている「STARTING OVER」から蔦谷さんが参加して、それから10年近くずっと一緒にタッグを組んでいたわけだから、メンバーにとってもファンにとっても思い入れが相当深いでしょう。

「君に会いたい」の伸びがすごい。
そういえば高橋一生さんに提供した曲で、同氏は以前「普段恥ずかしくてなかなか使えない言葉を、彼というフィルターを通すことで抵抗なく言うことができた」と発言していたが、「いや、この曲で『君に会いたい』って言ってたじゃないの」と思っていたら、奇しくもそのタイミングで演るものだからビックリ。これもどうでもいいですね。

途中、1列目の人にかなり接近して歌っていた記憶があるが、アレは何だったのだろうか・・・。


7.翳りゆく部屋

蔦谷さん繋がり2曲目。
この曲は2017年の47都道府県ツアー以来かな?2018の新春でもやったのか。

イントロの優しいピアノで「あぁ、蔦谷さんだ!」と再認識。
こんなに早くまたエレカシ蔦谷好位置ヒラマミキオという組み合わせを見られるとは思っていなかった。もちろん嬉しい誤算です。

 

ここで金原さん&笠原さんペア登場。

宮本さんがMCで野音30周年について触れるが、30周年ではなく「30回目」と発言していたのがやや気になる。回数は100回近くやっているのではないでしょうか。

その流れで「ここの館長さんと知り合いになっちゃって。毎年来ているからさ」と続けるも、客の反応が微妙だったためか「面白くないですね」と早々に切り上げる。いや、どんまい。


8.リッスントゥザミュージック

今年の新春でも気づいたが、井の頭公園をちゃんと「いのかしら」と言っている。ベストアルバムのセルフライナーノーツでもコメントしていたし、ちょっと気にしているのかしら公園。おい。

ちなみに口笛は、僕が聞いた中では一番出ていた。
個人的に口笛に入る前の「ああー」を地声で歌ってくれたのが結構嬉しかった。

ラストのジャムセッションっぽいやつはいつ見ても圧巻。
宮本さんの「好位置ぃぃーー!!」という呼びかけに応えるように、激しい高速タッチを繰り広げる蔦谷さん。好き。


9.彼女は買い物の帰り道

これも聴きたかった曲のひとつなので嬉しい。
違うこれは涙ではなく雨です。

もともとメロディが綺麗な曲だけど、ストリングスが入るとこんなに美しく感じるものなのですかね。

「心ギリギリいっっつぉーらぁーい」という歌詞のミスがちょっとツボだった。どうでもいいですね。


10.笑顔の未来へ

まぁ、蔦谷さんといえばこの曲。
「涙のテロリスト」というカセットテープの曲を「笑顔の未来へ」という素晴らしい作品へ昇華させたことがきっかけで信頼関係が生まれたのでしょう。たぶん。

野音という小さなハコ(もはやハコではないが)だからか、ストリングスをはじめそれぞれの楽器の音がちゃんと聞こえる。それもこの会場のいいところのひとつなのだと感じた雨の日。


11.ハナウタ

「俺たちの代表曲のうちのひとつ」という紹介でスタート。

口からCD音源というのはこういうことを言うのかしら。いや、それ以上のパフォーマンス。

ディミニッシュコードの響きが好きで、この曲ではその流れが全部気持ちいいので肌で体感できて良かった。

蔦谷さんのコーラスが何だか無性に嬉しくて仕方がない。これを愛と呼ぶとすればいいのか?

あと、やっぱりイントロは「もういっちょ」なんだね。


ここでMC

話題は金原さん&笠原さんとの付き合いについて

金原さん、笠原さんとは2007年の桜の花舞い上がる武道館からの付き合いで、金原さんはその前の「桜の花、舞い上がる道を」でストリングス演奏に加わっている。
金原さんとは長い付き合いになることを言いたいらしいが、年齢を想起させる話題なので表現に苦しんでいる様子の宮本さん。

「もっと古いところで、それこそ細海さんとも一緒にやった曲、あの・・・古いところって言っちゃうとアレか」(『シャララ』のことです)
「まぁ、その・・・それなりに年齢も・・・いや、嘘言ってもしょうがないので」
「付き合いの長い・・・長いと言うとまたちょっとアレですけど」

僕は男だけど、こういった姿勢は非常に好感が持てる。
最終的に「瑞々しさを失わない」というところにどうにか着地しました。


このMCをして、当人は「大人っぽいMCができてよかったですね」と言っていたが、果たして?


都会的でカッコいい曲を、という言葉と共にスタート。

12.明日への記憶

僕の好きな曲の1つでもあり、野音の定番・・・とまではいかなくとも、2番手以上であることは間違いないはず。
この曲は好きだからカラオケでも頑張って歌いたいんだけど、アホみたいに難しい。

そんな中で今日はほぼ原曲どおりに歌ってくれて感激の極み。
CDのアレンジも好きなので、ストリングスを交えたバージョンで聴けたのはとても良かった。


最後に「チクタクベイベー」と言っていたのは何だったのだろうか。まぁいいや。聞かなかったことにしておこう。

あと、この曲が終わった瞬間脳内で「ヨロレイーーーン」と再生された人は多いはず。七月の雨ですな。


ここで金原さん、笠原さん、蔦谷さん、一時ご退場。


「では、新しい曲を」

13.旅立ちの朝

この曲は宮本さんお気に入りなんですね、分かります。
なんというか、エレカシ=東京のイメージなんだけど、この曲の場合はエアーズロックとかグランドキャニオンが浮かぶ。


ミッキー一時ご退場。そして土方隆行さんが登場。
宮本さん曰く「先生」。ソニーと契約が切れたあとの恩人で、「四月の風」の編曲をされた方ですね。


14.四月の風

1996年4月、FM802ヘビーローテーションに選ばれたのがこの曲で、演奏前にはそのことについて触れていた。
アコギを土方さんが担当。音がキラキラしていてめっちゃ綺麗。ほしい。

というか、CDで何回も聴いたあの音じゃないか!すげぇ。

あと個人的な願望としてはアルバム収録バージョンも好きだけど、死ぬまでにファーストバージョンを聴いてみたい。


15.悲しみの果て

同じく土方さんが編曲で携わった曲。
土方さんはエレキギターに持ち替えており、いつもの2倍尺の間奏部分では土方さんのギターソロを堪能。かっこいい。


16.今宵の月のように

同曲を作っているとき、もともとアコギは自分で弾いていたが、自分のギターだとどうしても激渋になってしまうので、佐久間さんに頼んで「なんとか土方さんに弾いてもらいたい」とお願いしたそう。
どうやらポニーキャニオンに音源化されていない「今宵の月のように 宮本ギターVer.」が眠っているらしく、本人もそれを聞きたいと言っていた。そんなんこっちだって聴きたいです。

録音は、今はなき一口坂スタジオというところでおこなったらしい。どこだ・・・。

というわけで、例によって今回のアコギは土方さんが担当。
音色やコードが若干宮本Ver.と違って、僅かな違いなのにだいぶ雰囲気が変わって聞こえるのが不思議。


第2部

17.RAINBOW

けっこう歌い慣れてきているな、という印象。
2年位前まではこの曲を歌うだけで体力をゴッソリ持っていかれるイメージだったけど、この曲との上手な付き合い方を学んだのか、完成度、というより純度がかなり高かった気がする。

相変わらずの雨だが、会場の盛り上がりは最高潮。


18.かけだす男

新春以来ですね。またやってくれるとは思わなかった。

いや、今日が雨だからか?なんて思ったけど、昨日もやってたから全然そんなことないね、偶然だね。
蔦谷さんがいたら「もいちーどー」というコーラスがあったのかな。


宮本さん、アコギに持ち替える。

19.月の夜

来たぜ!野音と言えば外せないこの曲。月が出ていないとかもうどうでもいいじゃない。

これぞまさに「弾き語り」という感じの、独特なリズム。
そしてようやくEPICの1曲目。あたしゃびっくりだよ。

誰も手を挙げず、声を出さず、宮本さんをひたすらに見つめる客席。息を呑むというのはきっとこういうことを言うのでしょう。
最後の一音が聞こえなくなってから拍手、という慣習が生きているのって、エレカシだけなんじゃないのかな。

 

曲が終わり、よく見えなかったが、アコギが地面に落ちる。そして宮本さん「タオル持ってきて」
立見なので何があったのか分かりません。誰か教えてください。


20.武蔵野

これも野音の定番。外すわけにはいかぬ。
厚生労働省のビルは何箇所か電気がついていて、誰か覗いてるかな?なんて思ったけど誰も窓際にいませんでした。

友達がいるのさの「なんてな」が好きで、武蔵野は「そんなこたねぇか」が好き。
本当にこの場所でこの曲が映えると感じた。

 

「雨にも負けずにも盛り上がっている、なんて奴らなんだ!」
「もともと決まっているんですけど、いいタイミングでやってきましたこの曲が!」

21.俺たちの明日

そういえば2017年の野音でこの曲を生中継したことがあった。
立見席から会場全体を見渡して、そんなことを思い出した。

宮本さんの声がでかくなるにつれて、雨も強くなる。
観客と対峙するのがエレカシのライブだが、今日は雨とも対峙していたように思う。


曲終わりに恒例の「いい顔してるぜ、よく見えないけど」

そしてMC。本日の名言が出ました。

「髪の毛が濡れると二枚目さが増す」

それを受けて誰か(男性)がなにかを言ったんでしょうね、「そこのオヤジも風呂あがったあと自分の顔見てウットリしてるくせに何言ってんだ!」と宮本さん。

「俺もそうだけど」
「小学校のときの口癖が『世界の美男子』ですからね」←これはよく言っている気がする


と、ここでメンバー紹介。

成治さんのハットに赤いリボンがついていることをここで初めて知る。かわいい。

「石くんです。今日はプロボウラーみたいです!」←共感を得てしまったらしく会場爆笑。

ちなみに僕の脳内では「プロボウラー石森」という昔の漫画のような名前が浮かんできて一人でツボにはまる。どうでもいいですね。


22.友達がいるのさ

これが来ないと締まらない。
久しぶりに「今日は寝てしまうんだ」を地声バージョンで聞けたのがとても嬉しい。

「歩かなくてもいいぜ」「斜めに行ってもいいぜ」「止まったっていいぜ」にしみじみしていたら、石くんに向かって「持ち場に戻れ」


曲が終わり、ここで全員ステージ上に大集結。
「独特の、でも思い出深い野音になりました」
「いい曲作るんで、また会いましょう」

23.ズレてる方がいい

エレファントカシマシオールスターズ(長いな)のようなメンバー構成で演奏。
ステージ上に10人いるので、随分と狭く感じる。

蔦谷さんと細海さんがノリノリでツインキーボードを弾いていたのが印象的。
豪華絢爛な内容に会場も沸いて一体感が生まれる。こういうのいいね。


正直20曲目くらいから日も沈み(もともと隠れていたが)強風も相まって寒くて仕方がなかった。
合羽がうまい具合に風除けの防寒具となってくれたものの、皆さん体調にはお気をつけていただきたく思う。

ラストに宮本さん「なんてタフな奴らなんだ!」


アンコール1

24.so many people

舞台袖に捌けた人たちが再度全員集合。10人編成でのソーメニー。
ここまで来るとホーンセクションも欲しくなってくる。

宮本さんはじめ、会場全体がかなりハイテンションだった。

アンコール2

25.ファイティングマン

イントロで会場が沸く。
デビューシングルがこんなに愛されるなんてすげぇよ。

ちなみにこの曲は5人。メンバー+細海さん。


細海さんがここでご退場。最後はメンバー4人に。

26.星の降るような夜に

実はこの曲か「流れ星のような人生」のどちらかをやるのではないかと予想していた。というのも、奇しくも今日が七夕だからである。
まぁ雨なので星も降っていないし、宮本さんも禁煙しているのでタバコはずっと切れているはずだが、この曲で終わるなんてとてもロマンチックじゃないですか。

「ぶらぶら行くとしよう」がエピック時代の声かと思うほどで、当たり前だけどやっぱり本人なんだな、と。


「もう夜か」→「雨が降ってきちまったな」に変更。

 

というわけで以上。
もう疲れたので寝ます。

子役なのに子供じゃねぇじゃん

拝啓 親愛なる寺田心 殿

 

はじめまして。
突然お手紙を差し上げますご無礼をどうぞご容赦くださいませ。

いつもテレビで貴殿の元気なお姿を拝見しております。
去る6月10日には11歳の誕生日を迎えられたそうで、本当におめでとうございます。

さて、さっそく本題となりますが、このたび貴殿(以降「甲」)にいくつか申し上げたいことがございましたのでこのように筆を執った次第です。
御耳には決して届くことのない拙文であると存じますが、当方(以降「乙」)はついに甲に対して我慢の限界を迎えてしまいました。

古来より呑舟の魚は枝流に游がずとも申しますので、どうかご気分を害されぬよう殿上よりご笑覧くださいませ。


では早速。
何から書き始めれば良いのやら、まずは甲を画面越しに拝見することで乙の耐容一日摂取量が臨界点突破した理由について書き記したく思います。

乙は、甲の住まわれる天界の遥か下界、その中の小さな集落で産声をあげました。
幸いなことに、赤貧にあえぐこともなく今日までこうして恙なく命を繋いでこられました。

しかしながら、人間とはなかなかどうして貪婪な生き物なのでしょう。
数年ほど前、乙は自らの地位を顧みずにテレビなる電化製品を購入いたしました。

おそらく、虚仮なことにより良き生活を求め、娯楽に興じたいという願望を放擲できなかったことが原因と愚考しております。


そのうえ乙は民放チャンネルなる下賤な番組で、まことに恐悦至極ながら甲がお戯れになる御尊顔をたびたび拝見しておりました。

そうした不遜な行為が重なったことで、乙に天誅が下されたのでしょう。
乙は甲のお姿を画面越しに拝見しようとすると、次第に体中が痒くなり肌膚の疼きが止まらなくなってしまったのです。

甲の比類なき声音を拝聴したその瞬間、そのファンタスティックでエキセントリックでドラマチックな言辞に感涙する暇もなく、乙の右手は瞬時にリモコンなる粗悪機器を掴み、乙の意思に反してチャンネルを変えてしまうのです。
まるで乙の脳が、身体が、魂が、甲を全力で拒絶しているような錯覚に陥っているのであります。


しかしながら、乙は甲を嫌い、苦手意識を持っている、などといった不敬な念を持っていることは断じてございません。
御心得違いをさせてしまうような表現を重ねた非礼をお詫び申し上げます。

乙が甲に対して抱いているのはただひとつ、畏敬の念のみです。
現在乙の暮らす集落では「審美眼界のロナウジーニョ」と呼ばれるほどの高徳な僧侶がおり、その方によると、甲は「アポトキシン4869」なる妙薬を召されたのではないか、と申しておりました。

高徳な僧侶(以下「丙」)も乙同様、モニターという聖なるフィルターを通して甲のお姿をしばしば拝見するとのことでしたが、数年来ほどの時空を経ても甲のご様相が一向に変化しないことに疑義の念を抱いたというのです。
そこで奉納金の一部を使用して「ベルモット」と呼称される山吹色の髪を有した嬢子に極秘で調査を依頼したところ、とある研究所で若返りの霊薬開発をおこなっているとの情報を入手したと乙に報告しました。

乙は、丙の甲に対する背信行為が断じて看過できず、このとおりその事実を記すことを決意いたしました。
しかし畏れながら、丙は決して甲の秘匿情報を剔抉したいという考えではなく、純粋に甲に敬愛の情を傾けているからこその行動だったのだと拝察いたします。

きっと甲のような器量のある聖者であれば、丙の数々の無礼をお許しいただけると切に願っております。

 

末筆ではございますが、甲の益々のご活躍とご発展をご祈願すると共に、今後乙の甲に対するアレルギー反応が和らぐことを心より願っております。
年頃柄、声変わりされませんよう、どうぞご自愛くださいませ。

救いはアンパンマンの中に。乾パンは救いの中に。

アンパンマンたいそう』という歌の中に、「アンパンマンは君さ」という歌詞が存在する。
じゃあお前はいったい何者なんだよ、なんて思っていた時期もあった。


アンパンマンというのはひどく傲慢なヒーローであると思う。
人は時に救いを求める。ピンチに陥ったとき。落ち込んでいるとき。塞ぎこんでいるとき。そして、お腹がすいているとき。

そのさなか突如現れた彼は、尺が足りないんじゃ!という大人の事情で敵を一蹴し(正確にはパンチ)、そして食物を与える。
僕はこしあん派なので、正直なところつぶあんの彼を食べようとは思わないんだけど、でも本当にお腹がすいていたとすれば、彼の姿はそれはもう神々しく見えるに違いない。

そうやって彼は、自らを神聖視し崇め奉らざるを得ない信者を増員させてゆく。

なんといっても、彼は見返りを求めない。ここに美学があり、カラクリがある。
彼のおこないは、ビジネスではなく紛れもない慈善事業。SDGsでありCSRでありNPOなのだ。


しかし人間というのは悲しき哉、見返りを求めるものである。
見返りというのは、自分が動いたときだけでなく、相手に何かをされたときも同様。

ほら、お隣さんにお土産もらったら絶対お返しの品とか用意するでしょ。
助けられた一般人がヒーローに向かって「せめてお名前だけでも...!」とか言うでしょ。


アンパンマンに命を救われ、そのうえ食物も与えられる。
だのに彼は口座番号の書かれた振込用紙を手渡すでもなく、「礼なんて要らないさ」とその場を後にしようとする。


なんたるモラルハザード
彼は人間を一体なんだと思っているのか。

義理と人情を何よりも重んじる江戸っ子ならば、この彼の言葉に激昂すること間違いなし。
プライドがズタボロになったぶん、せめてその恩返しをするか、あるいは何もしないことへの報いを受けなければ男が廃る。


そういうギブアンドテイクの関係性を、どうして彼は理解できないのか。踏みにじられたヒトの思いを斟酌できないのか。


男はひとり、自部屋に閉じこもって泣いていた。
俺はなんて惨めな生き物なんだ。いっそこのまま死んでしまったほうが・・・


そう思ったまさにその時。
突如テレビの画面には、かの御仁が1/10スケールで射影され、そして高らかにこう歌うのだ。

アンパンマンは君さ」と。
つまり、受けた恩は必ず返せと。けれどそれは恩義を受けた相手に向けてではなく、目の前で困っている人に、これからの時代を担う子供たちに、そして愛する家族に。


彼は決意する。もう一度、ここから踏み出そう。俺も役に立つ人間になろう。
誰かの役に立つのではなく、困っている人の役に立とう。


そんな思いの末に生み出されたものこそ、今の時代誰もが認知しているあの製品。その名も乾パンである。

備えがあるから憂いがなくなるのではない。憂いがあるから備えをするのである。
彼は幼い頃に震災で両親を失くし、祖母の寵愛を受けて育ってきた。

そんな彼も今や一児の親。
愛する妻と可愛い娘に恵まれ、決して裕福とは言えないながらもささやかな幸せを享受して過ごしてきた。


あるとき、彼は勤め先の都合で出張に行くこととなった。
妻と娘を残し、遠く離れたある土地へ。

玄関口で妻が所持させてくれた数枚のパンを片手に、電車に揺られること五時間。
やっとの思いで到着した父は、しかしその瞬間、激しい揺さぶりに思わず転倒した。


地が割れ轟音が響き木々が軋み悲鳴が耳を劈き、世界が怒っているようであった。地震である。
降りたばかりの電車は、気づけば数十メートル先で横転しており、駅ホームの屋根は緩やかな風に揺れて粉を吹いている。

男は唖然とした。
わずか1分前までの平和が、たった十数秒の出来事により、見事に破壊されている。

これが現実なのか、受け入れなければならないのか。


だが、男にはそんなことを悠長に考えている余裕などなかった。

妻は、娘は、無事なのだろうか。
娘は泣いていないだろうか。
ここよりも被害が大きくなかっただろうか。
昨年建てたばかりの家は、2人を守ってくれたのだろうか。


父は、横転した電車を横目に決断する。
今すぐに帰ろう、と。

父は歩いた。
会社のことなど、仕事のことなど、出張のことなど、とうに忘れていた。
自分が何のためにここに来たのか。そんなことよりも、今はもっと大事なものがある。

父は歩いた。ひたすら歩いた。
ひび割れたレールに沿って、ひび割れた地面を踏みしめて。

どこまでも、永遠にたどり着かないような道のりを、休むことなくひたすら歩き続けた。

 

そうして20時間がすぎた。
日が沈み、やがて昇り、いつもどおりの太陽。いつもどおりの朝。しかし、何もかもが違う朝。

彼はふと、自らの空腹に気づく。
思い返せば、丸一日何も口にしていなかった。

そう思った途端、唐突に腹の虫が騒ぎ出し、足がしびれるように痛み出し、強烈な眠気が彼を襲った。
でも彼は休んでなどいられない。休む時間など残されていない。

歩みを止めないまま、彼は背負った鞄から小さな袋だけを取り出して、再び背負い直した。
手に持った袋には、昨日妻が渡してくれたパンが入っている。

それを掴んで口に運ぼうとするのだが。
パンは布のようにガチガチに固まっていた。

昨日からひどく乾燥していたため、内部の水分が抜け、パンも干からびてしまったのだろう。

その触感に彼は食欲も失せ、いま一度袋の中に戻そうとも思ったのだが。


一口食べてみる。歯に触れた瞬間、水気を失ったパンの表面がザザザッという効果音を出しながら、少しずつ口腔内に入っていった。

やはりボソボソ。硬くてとても食えたものじゃない。でもなんだこれ、めちゃめちゃ美味しいじゃねぇか。
なんだよこれ。バカみたいに旨いじゃないか。

「空腹は最高のスパイスである」という言葉がかつて嫌いだった。
ブルジョアが気まぐれに発した言葉に思えたし、約やかな生活を繰り返してきた彼にとって、空腹とは苦痛でしかなかったからだ。


だけども、違った。
空腹とは魔法のごとく食べ物を美味しくしてくれるのだ。幸福を与えてくれるのだ、紛れもなくスパイスだった。


ただでさえ水分が足りていないのに、そんなことに今更気づいて、彼は涙を流しながら歩を進めた。


そして50時間後。ようやく彼は自宅に戻った。
いつもと変わらず照りつける太陽、青い空、町並み、匂い。そして、妻と娘。

ひどい臭いを放ち、ボロボロになった服になどお構いなしに、妻が涙ながらに飛びついてきた。
どうやらこちらは何事もなかったらしい。それでいい。

いつもどおりの笑顔で「おかえり」と出迎える娘に、彼は幸せを見つけた。
そして同時に、ヒーローになる決意をした。


彼は会社をやめ、3年もの年月を費やして乾パンを生み出した。

売り出した当初は、絵に描いたように酷評だった。
面と向かって「マズい」と言われたこともあった。けれど、それで良かった。

なぜなら彼は、ホンモノの幸せの味を知っているからである。

 


※これは作り話です。そしてゲーテなんていう人の名前は知りません。

また、乾パンはアンパンマンよりも先に生まれました。
それから僕は乾パンが嫌いです。あれは氷砂糖を食べるための試練だと思っていつも食べています。