男と月と、それから女 (中篇)
今回は眠気に打ち勝てなかったため途中放棄した話の続きから書き進めていく。
ちなみにこれが前回の話。
一応本題に入る前にざっとおさらいをしておくと、高校時代共に陸上部に所属していた僕の友達であるAO木くんが、その1年上の先輩に好意を抱くというところまで書いたかと思う。
ってあれ、思ったより全然進んでいなかった。人物紹介すらたどり着いてないじゃん。マジかよ大丈夫かよ。
まぁ何はともあれ、彼は恋に落ちたのだ。それまでは落とし穴とか数学のテストくらいでしか落ちたことがなかった彼が、青春という名の未開拓地域に足を踏み入れていった。
だが彼が自身の気持ちに気付いたきっかけというのがなんと心理テスト。
その内容というのも、中華店のような円卓で食事会をする場合、自身を固定して残りの異性を5人好きな場所に座らせることができるとするならば誰をどこに座らせるか。その配置によってそれぞれの異性の好感度を測ろうとする、いかにも中学生女子が食いつきそうな心理テスト。
例えば左隣に配置した異性は「好きな人」で、右斜め前に配置した異性は「異性としてみていない人」なんていうものである。
というかそれ以前に好きな女子を5人選ぶことができて、しかもその人たちを好きな場所に座らせることができて、その上一緒に食事も摂れるなんて一体どんなご褒美シチュエーションだよって感じだが、ともかくそんなゲームを部活の大会中にテントで和気藹々と繰り広げていた。
あ、必要かどうかは微妙だが若干違うものの同じような心理テストがあったので一応載せておく。(ちなみにこのサイトでは2番目の「テーブル編」と書いてあるものが近い)
そして彼がそのテストで何となく書いた自身から見て左隣の席、その席に書いた女性こそ、彼が後に恋焦がれることとなるMさんであった。
とまぁこの文だけ見れば「えっ?たかが心理テストで好きとか嫌いとかそんな簡単に気持ちが揺らぐものなの?」という疑問が飛び出てきそうなものだが、ここで誤認を正すとするならば、彼はこのテストによって自身の気持ちに気付いただけなのだ。
つまり彼は元々1年上の先輩のことが好きだったが、自分自身その気持ちに気付いておらず、しかし心理テストを通してようやくその気持ちに気付いてしまった、と。
いや、皆さんの言いたいことは分かりますとも。
僕だって書いていていまいち釈然としない。
「元々好きだったんなら心理学テスト云々の前に普通気付かないか?」とか「本当は気付いていたけど恥ずかしくて言い出すタイミングが無かっただけなんじゃないの?」なんて思われても責めることはできない。
そりゃこんな急展開、実際にジェットコースターでやったら毎回乗客が6人くらい吹っ飛んでいそうだし、恋愛漫画家がこんな恋の始まり方を思いついたとしても、おそらくプロットの段階で担当編集からため息混じりに「やり直し!」と言われるに違いない。
それくらいぶっ飛んでいる。ぶっ飛びすぎてただの変態のようにも思えてくる。
だが彼はそう、こんな陳腐な言葉で彼の青春を表すのも些か気が引けるのだが、彼は正真正銘ど天然のピュアであった。
上野公園の西郷隆盛みたいな図体をして純真無垢。
おそらくこの世に最も需要の無いギャップ萌え属性をその身に体現したのが我が友達AO木くんという存在であった。あ、こんなこと言ってごめんねホント。
ちなみに彼が惚れたMさんという女性は、そうだなぁどう形容すべきか。
田舎の中ではそれなりに垢抜けた、それでもどこかいなたい印象は拭えず、されどそんな振る舞いは決して白日の下に晒さない、栗羊羹にホワイトチョコレートソースをまぶしたような・・・まぁそんな感じ。どんな感じだよ。
分かりやすくいえば、おニャン子クラブが全盛期の頃、その流行に乗じてできた数多あるアイドルグループのうち人気投票で上から18番目くらいの人物。
やべぇまったく意味が分からねぇ。
まぁおやつで言うところのカステラみたいな・・・いや、もうやめよう。そんな彼女に、AO木くんは想いを寄せるようになったのだった。
しかし恋愛経験の少ない彼にとって、好きになったはいいもののそこから先をどうすべきか思案する暗い日々が続いていく。
だがそうこうしているうちに、彼女は意外にも結構モテるようで多くの男性との噂話が矢継ぎ早に巡ってきた。
Mさんが誰かと付き合っているらしいとか、昔○○という人物に告白されたことがあるだとか、今ある人物とちょっといい雰囲気になっているところを見ただとか、
そうした情報が耳に入るたび、崩壊の一途を辿る彼の精神が更なるダメージを受けてゆく。
おまけに女性というものは敵を排除して群れを作る動物であるからして、つまり残念ながら彼女の悪口というのもどこからともなく聞こえてくるのだ。
そう、察しのいい人はお気付きのことだろうが、AO木くんは悩みすぎて壊れてしまった。
僕は漫画やアニメ以外で、実際に頭を壁に打ち付けるシーンというのをこのとき初めて目撃した。
第三者的な目線からすれば今更やきもきしている場合ではないだろうと背中を押した方が良かったのかもしれないが、その、何というかね。
僕も経験豊富なほうではないものでして、ね。
しかもこんなさ、精神崩壊寸前の男を一友人がどうこうできる問題ではないなと、そう思いますよそりゃ。
いずれにせよ、彼はあの心理テストの日からどす黒く真っ青な春を謳歌することとなったのだった。