お金がほしい

お金がほしい

先に謝っておきます。ごめんなさい。

駅構内トイレにおけるクモとの凄絶な闘い

突然だが、僕はクモという生物がこの世の中で一番嫌いである。

突如白い壁に出没する黒く不気味なアイツ。
突如家の玄関前に巣を張るアイツ。
突如どこからともなく目の前にぶら下がってくるアイツ。

もうホントに大嫌い。顔も見たくない。
それはもう、探偵ナイトスクープに「クモ嫌いを直したい」という投稿を出したら神回になること必至なくらいの異常な拒否反応を起こしてしまうのだ。

とにかく気持ち悪い。
生きていても気持ち悪いし、かといって殺すと縮こまってそれはそれで気持ち悪い。
もうどうしようもない。

「どうしてそんなに嫌いなの?」とよく言われるが、逆に「どうしてそんなに嫌いじゃないの?」と訊き返したくなる。
でもそんなもん考えたって自分でも分からない。

そもそも好き嫌いに理由なんてないんだよ。恋は理屈じゃないとか言うでしょ?



さて、話が少し変わるが僕は世間に対して一つ非常に不愉快に思っていることがある。
世の中への不満なんてそりゃあ腐るほどあるが、今回はクモの扱いに関してだ。

僕がクモに対して過敏なだけなのかもしれないが、ことあるごとにクモだけ何故か特別扱いされているような気がしてしまうことが結構あるのだ。

例えばそれはお盆の頃。

夏のクソ暑い代名詞であるお盆にヤツらが出ると、ご老輩から
「クモはご先祖様の仮の姿だから殺しちゃあいかんよぉ~」
とか言われる。

ちょっと意味が分からない。

いや、それはさすがに無理があるのではなかろうか。

そもそもどうしてご先祖様はクモになるのだろう。
そりゃ芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の話は有名だけど、仮の姿になるとて、数多の生物の中でわざわざクモを選ぶ理由が分からない。とりあえずその決め手を知りたい。

だって気持ち悪いじゃない。コスプレにしたって趣味が悪すぎやしませんかね。

だからご先祖様よ、ごめんなさい。
いくらお盆にいらっしゃっても、クモのコスプレを続ける限り見つけ次第即時殺戮態勢に移行しますのでお覚悟を。


あとはアレ。
「クモは他の虫を食べてくれるからさ」と言ってクモを重宝する風習。

最近はこうした魔法の言葉が人間を操って、これまでクモ嫌いだった人々を瞬く間にクモ愛好家へと変えてしまっている。

もちろん理屈は分かるさ。
随分と前から言われていることだし、クモは嫌われ王の世界チャンピオンことゴキブリさんや鬱陶しさにおいて業界ナンバーワンを誇るハエさんを食べてくれるらしいのだ。

そりゃ影ながら人気が出るのも頷ける。
ゴキブリ嫌いの全人類の味方。稀代の救世主。


でも違うんだよ。
僕が言いたいのはそうじゃない。

よくテレビとかネットの記事に書いてある「クモは他の虫を食べてくれるので殺さないほうがいい」というアレ。

全然違う。もう何にも分かってない。

僕が言いたいのは、
他の虫は居てくれていいから、クモだけ居なくなってほしい

これなんだなぁ。

ハエなんて電気つけておけば勝手に自滅してくれるし、ゴキブリなんてそういや最近見ていないけど巨大なタマムシみたいなものだ。
って言ったらタマムシ好きな人に怒られそう。

でもとにかくクモさえいなければ僕は平和に暮らすことができる。

まぁこれまでこの理屈を述べて一度たりとも同意をもらえたことは無いので理解されないのは重々承知済みだが、とにかく僕はクモが嫌いです。
だから僕に嫌われたい人は誕生日にクモをプレゼントするといいでしょう。

一生かけて呪ってあげます。


とまぁこんな具合でクモは僕にとっての天敵なのだが、そんなアイツと昨日対峙する羽目になってしまった。

それは昨日の夕刻、最寄り駅のトイレ内にて。

混みあった電車から降りた僕は、やや早足に改札を抜けてトイレへと向かっていた。
数日ぶりの怪しげな兆候。便秘体質の僕が抗うことのできない闘い。

心の中で個室が使われていないことだけを祈りつつ着実に歩を進め、僕はトイレへと足を踏み入れる。

若干薄暗く妙な臭いのたちこめる空間で、黄色いライトに照らされた個室は健気にも扉を開いて僕を受け入れる準備を整えてくれていた。
和式だったが一向に構わない。むしろ若干ながら潔癖の気がある僕にとっては和式のほうがありがたい。

心の中で盛大なガッツポーズをかましながら、いそいそと、それでも尚痛む腹部を押さえつつ僕は入室を完了し、その時が満ちるのをさながら只管打坐する僧侶のように待ち続けた。

それから数分が経ち。

「...来たっ!」
満を侍して登場。青コーナー老廃物。

これまで長い闘いだった。
幾人もの犠牲者(ガス)を出したものの、それでもたしかな未来に繋がると信じて仲間内で支えあってここまでやって来た。

そうして俺たちは今日。ついに勝利を手にするのだっ!

ウォーーッ!と狼のような勝鬨ををあげようとつい頬を緩めた僕だったが、しかし現実はそう上手く運ばず。

「た、大変です隊長!たった今前方より国籍不明の敵軍進行中との情報が!」
「な、なんだと?それは本当か!」
「現在観測部隊に確認を急がせています。・・・な、なんだって!?」
「おい、どうした!一体何があった!」
「本部より通達です。敵はスパイダー王国の伏兵と見られるとのこと。どうやら敵軍と水面下で今回の作戦の一環として一枚噛んでいた模様。全軍準備態勢が整い次第速やかに迎撃任務へ移行せよとの命令です。」
「クソッ!おのれスパイダー王国め。この期に及んで趣味が悪いにも程があるぞ!」

 

とまぁこんな感じの闘争がトイレの中で繰り広げられていたのだ。

これでだいたいお分かりいただけただろうか。
え、あれ?何一つとして分からなかった?

えぇとつまりですね、トイレに入って腹痛で悶絶していたら目の前にクモが出たと。
でも出るものも出そうだし個室一つしかないしで後に引けない状況になり苦労しましたよ、というお話。

え、なに?はじめからそう言えよって?
やだなぁ、僕が真面目にクモの話なんてできるわけないじゃないですか。

でもおふざけがすぎましたよね。ごめんなさい。