涙のテロリストは手に負えない
久しぶりの更新。
残念、生きていました。
最近は田舎の実家と東京の往復を繰り返しているので忙しくて更新できないのです。
たぶんあと2ヶ月くらいそんな感じが続くので、僕も最近のトレンドに肖って無期限活動休止とでも銘打っておきます。
どうせまた再開するんだけど。
ともあれ田舎と都会の違いというのはやっぱり沢山あって、その最たるものはコンビニトイレの有無なのではないかと強く思っている。
過日、僕は腹痛に苦しんでいた。
遠出が多くなったことの弊害で生活のリズムが崩れて、イッツマイ快便ライフが突如終焉を迎えたのだ。
いや違う。前日に賞味期限が1日過ぎたコンビニおにぎりを食べたのがいけなかった。なんか海苔が湿っぽかったし。しかも薬品みたいな味がしたし。
あいつのせいに違いない。おのれ、今後は二度とお昼におにぎり4つなんて買ってやるものか。
しかし。過去は憂いても嘆いても変化してくれないので、我々人間というのは前しか向けない。振り返ることはできても進む方向は変えられない。そういうふうにできている。
ならばこの現実を受け止め受け入れて、建設的に対応策を考えるのが吉だろう。
というわけでやって参りましたコンビニエンスストア。
田舎人の考えとしては緊急時のトイレ=コンビニという意識が脳内に染み付いているため、頭を空っぽにして辿り着いた先がコンビニであったわけである。
けれども都会のコンビニでトイレに遭遇するのは非常に稀有で、しかも港区でその奇跡に乾杯できる日にそう易々と巡り会えるわけがなかった。
僕は三軒回った。青いところ、合併したところ、24時間営業じゃなくなりそうなところ。
恐ろしいことに、そのすべてにトイレがなかった。東京人ってもしかして昔のアイドルみたいにトイレ行かないの?
だがそうこうしているうち、僕の胃腸がかねてより奏でていたスクリームが限界に達しつつあり、もはや悠長に四軒目のコンビニを探している時間的、精神的余裕はなかった。
いや、コンビニ以外を探せよって思うけどね。
でももう本当に限界だったのだ。焦るほどに追い詰められ、冷たい汗が止まらなくなってくる。ケツの。
だが人間というのは面白いもので、極限に追い詰められたとき、その本性を露わにするらしい。
人間って普段の生活で脳みその5パーセント程度しか使っていないらしくて、それが極限状態ともなれば人間はそう、覚醒する。
僕はレジの前に立った。
いらっしゃいませ、と店員が言うか言わないかのうち、僕はズボンに隠していた拳銃を彼の額に突き立ててこう言い放つ。
「命が惜しくば速やかにトイレを貸せ!さもなくばレジ前の通路が……そりゃ大変なことになるぞ!」
もはやテロである。だが僕の腹ではすでに謀反が起こっているのだ。食べ物一揆を起こされて沈黙を貫くのは殿様ではない。
レジの周りでは、客や他店員がザワザワしはじめた。
銃口を向けられる店員。必死の形相で金銭…ではなくトイレを要求する者。いやはや世の中物騒ですねぇ。
だが僕とて後には引けない。諦めたら試合終了。鳴るのはホイッスルではなく、たぶんケツの悲鳴。
「おい、いいからトイレを…」「お客さま!」
再びそう発したとき、店員の大きな声が僕の言葉を遮った。
「お客さま。申し訳ございませんが、当店にトイレはありません」
毅然とした態度だった。テロには屈しないぞと、そう言わんばかりの勇ましい目つきであった。
けれどもそれは蛮勇である。ネームプレートには「研修中」の3文字があり、もはや責任を持たないバイト君を籠絡させることなど至極容易に思えた。
「知っている。だが客に貸すトイレがないというだけで、店員用のトイレはあるのだろう?」
完全なブラフである。コンビニでバイトした経験はないが、おそらく店員用のトイレはどこでもあるはずだという謎の確信があった。
だが。
「いえ…店員用もございません」
「………え?ないの?マジで?」
「そうなんです。こちらのビル上階にトイレがありますので、そちらをお使いいただければ」
「え、あっ……そういうこと…」
「スタッフも皆そちらを利用しておりますので」
「あー…そうなんですねぇ…」
「よろしくお願いします」
「……分かりました。ありがとうございます」
バイト君は冷静だった。
一方の僕は別の汗が出てきた。
拳銃を持つ手は小刻みに震え、膝は笑い目は焦点が合わない。
しかも拳銃を引っ込めるタイミングを完全に見失ったことで、レジ後方からは「いいから早くトイレ行けよ」みたいな圧をすごく感じる。
「あの…良ければこれどうぞ」
血迷った僕は、収納し損ねた拳銃を店員に手渡そうと試みる。
「いえ、要りません」
即フラれちゃったー。悲しいな。
「で、では…さようなら」
「ありがとうございました。またお越しくださいませー」
その後僕は無事に排泄任務を完了し、業務執行妨害の疑いで逮捕、服役して事のあらましを現在一筆したためているのである。
東京なんてもう懲り懲りだぜ。
そう思いながら電車に乗っていると、疲れ気味のOLが僕の隣に座って寝始める。
そしてしばらくすると頭を僕の肩に預けてすやすやと寝息を立てるのだ。
フッ…なんだよ、東京最高!