お金がほしい

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2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

台湾旅行記 狂乱のホテル篇 4

僕らの計画は、今度こそ完璧に近いものであった。
そう確信するほかなかった。

 

実を言うと、先ほど隣の部屋に返却したルームキーとは、僕らの部屋のルームキーだったのだ。

ルームキーというのは、通常2人部屋の場合それぞれの手に行き渡るよう2枚配られる。
そのため最悪の場合どちらかが室内に置いてきてしまっても、片方がルームキーを持っていれば問題ない。

そこに着眼した僕らは、ついぞこの計画を立案した。

つまり僕は彼らに彼らの部屋のカードキーを返すように見せかけ、自分たちの部屋のカードキーを渡したのだ。

 

だが念には念を、である。

カードキーはたしかに、デザインはどの部屋に至っても統一で一瞬の見分けはつかない。
しかしカードキーの表面にはそれぞれ対応する部屋番号が油性ペンで書いてあり、それを見られてしまうと即座にバレてしまう。

そのためまずは、彼らに僕たちを信用してもらうため本物のルームキーを机の上に置くことにした。
彼らの部屋のルームナンバーが書いてある面を上にし、ちゃんと嘘偽りなく返却したということを彼らに示したのだ。

 

そして、そこからは先ほど同様。

彼らは、僕らがルームキーをちゃんと返却したと思い込んでいる。
その油断につけ込むようにして、U原くんと僕はK西くんたちに向けて様々な会話を繰り広げた。

台湾のクソマズ飯のこと、ホームステイのこと、K西くんがリバースしたこと。。。
もちろん、K西くんの風呂覗きに失敗したが実際はかなり自信があったのだということも面白おかしく話した。

その中で、K西くんのイチモツに興味があっただけなのでAO木くんのシャワーなんて覗かない。というか覗きたくない。そもそもカードキーがないから無理、という話を彼らの海馬に刷り込ませるように綿密に話した。

もちろんこれも、その話をすることにより「彼らは単純に世間話をしたいだけであって、もう覗きをしようとはしないだろう」と思い込ませるための作戦である。

 

 

そうして話をする中で、僕はさりげなく部屋を歩き回ってもう1枚のカードキーの在処を探すことにした。カードキーは2枚セットなので、僕らが先ほど机上に返却したカードキーの他に、もう1枚別のカードキーがどこかに潜んでいるはずである。


ちなみに今、僕とU原くんのポケットには自分たちの部屋のカードキーが入っている。それと今いる部屋のカードキーを気付かれぬようにすり替えよう、というのが今回の作戦。

しかし、だとすればついさっき置いたカードキーと自分たちのポケットに入っているカードキーを再び交換すればいいじゃないか、と思う人がいるかもしれない。

だがその発想はやや短絡的だ。
まだAO木くんやK西くんが僕らを疑って目を光らせている可能性があることを忘れてはならない。

だからまだ彼らの神経が敏感なうちは、件のカードキーの近くでコソコソと怪しい動きをすることは避けておきたいのである。最悪の場合、バレてしまえば即刻頓挫してしまうという危険と隣合わせなのだ。

よって、彼らがノーマークであろう手つかずのカードキーと僕らのカードキーを交換するべきであると考えたのだ。もう完全に泥棒の思考回路だわ。

そしてもう1つのカードキーは、探してすぐに別の机の上に置いてある書類の下敷きになっているのが確認できた。
そこから僕は、一世一代の大勝負に打って出る。


僕は普段からあまり落ち着きがない。
それを逆手に取り、会話の途中でいきなり立ち上がっても不審に思われることはないだろうという推測の元で再び部屋中をぶらつき始めた。

途中K西くんのスーツケースの中身について質問したり、床に雑然と置かれている着替えを拾い上げたりすることで本意をカモフラージュしつつ、少しずつその机へと近づいていった。


そしていよいよご対面。
手に届く距離にカードキーがあるが、しかし堂々と交換することはできない。

そこで僕は、その机に軽く腰掛けることにした。
K西くんとAO木くんの視界を遮るようなイメージである。

 

まぁ参考までにこんな感じ。 

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あれ、これで何となく伝わるかな。伝われぇ~。

 

まぁ今の念力で間違いなく伝わったと思うので、話を続ける。

そうして彼ら2人に気付かれぬよう、僕は背中に回した手を器用に使ってカードキーを探った。

手探りの中で手ごたえを感じると、それをポケットに忍ばせたカードをこっそり入れ替える。作戦は完璧に実行された。

 

 

こうして任務は完了した。

K西くんもAO木くんも、僕の秘匿スワップ作戦には全く気付いていない様子だった。

 

だがこうもうまくいくと若干心配にもなるものだ。ここで油断して先例と同じ轍を踏むのは避けるとしても、決行するまでは成功の見込みは未知数であるため一抹の不安は残っていた。

そして、いよいよAO木くんがシャワーを浴びる時がやってきた。

僕らは案の定外へ追い出され、U原くんと一緒に一旦自室に戻った。

僕らの手には、たしかに隣の部屋のカードキーがある。
そして、彼らはそのことに全く気付いていない。

だが、それによってK西くんが先ほどのAO木くんのようにチェーンをかけてしまう可能性は拭いきれていないのだ。

もちろんAO木くんのシャワーは覗かない、覗くわけがない、と再三にわたり彼らに言ってあるのでその確率は下げることができただろうが、100%チェーンがかかっていない保証などどこにもないのだ。


でも僕らには突入するほかなかった。

なぜかって?
なんか面白そうだからに決まってるでしょ。


それから数分後。
壁に顔をつけて聞き耳を立てていると、隣の部屋からついにシャワーの音が聞こえてきた。

AO木くんのシャワータイムである。


僕とU原くんは2人顔を見合わせてうん、と頷くと、立ち上がり隣の部屋へと足を向けた。

そこには、女湯を覗くときのような高揚感も緊張感も背徳感も、その微塵もない。
ただ同性のシャワーを覗いて写真を撮るというだけの、本当の意味での暇つぶし。

実際、成功したところで嬉しさもなければ収穫もない。
強いて言えば、ちょっとだけ友情に亀裂が入る程度の不要な報酬が待っているのみ。


そんな一切合財をドアにかけた右手に託し、カチャンという音のあと。

 

僕は握ったドアノブを、強く押した。