お金がほしい

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2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

扇風機スマホ破壊事件

ある晴れた日の早朝、静岡県のとある田舎にて世にも恐ろしい事件が起こった。

 

そう。
これこそ後に200万人もの被害者を出した通称「扇風機スマホ破壊事件」として知られる事件の発端に他ならない。

「扇風機スマホ破壊事件」とは、2000年代に流行した「携帯トイレ落下事件」に次ぐ新たな集団的流行病のことで、扇風機の隙間にスマートフォンが入り込み高速回転する羽にスマートフォンが破壊されるという何とも痛ましい事件のことである。
なお、この事件の流行は社会現象となり、「扇風機スマホ破壊事件」という言葉はその年の流行語大賞にノミネートされ、結果として幅広い年齢層に知られる言葉となった。

では、いかにしてこのような凄惨な事件が起きてしまったのか。
そして、この事件はいかにして日本を震撼させることとなり得たのか。

 


我々はこの疑問を解消すべく、その道のエキスパートを雇用しありとあらゆる手段を駆使して情報収集に乗り出した。

しかしそれは決して生易しい道のりではなかった。
出だしから早速、自分が最初の被害者だと語る謎のYouTuberに足止めを喰らう結果となり、更にはSNSによるコピペの大量散在が我々の動きを封じ込めた。

だが我々は諦めなかった。
時に法の目を掻い潜り、時に堂々と法を犯し、そうして真相だけを追い求めること2時間。


我々はようやく、ある人物の証言から決定的な情報の入手に成功。
そこから当事者のAさんへのコンタクトにも成功し、突撃取材のアポイントメントを取ることができた。


今回皆さんにお伝えするのは、紛れも無く当事者が語った「扇風機スマホ破壊事件」の真相。
言わずもがな本邦初公開。

事件の発端ともなったその被害者のリアルな言葉で、当時の悲惨さを感じ取っていただきたい。

 

 

 

―本日はお時間いただきありがとうございます。では早速インタビューの方をよろしくお願いします。

A:あっ、ホントに、えぇ。ちょっと、そうですね。はい、よろしくお願いします。

 ―では、まずは事件発生当時のことについてお聞かせください。 

A:あっ、そうですね。そうですよね。あのですね、その日は晴れていたんですよね、空が。
だからね、何というか眩しいなって。あっ、えぇと、要するに僕にとっては珍しく早起きしちゃいまして、その日の朝がね。
それでですね。まぁね、ただ単に早起きしたってだけじゃちょっとさ、何というか勿体ないなと、そう思いましてね。
そういうわけで自分でも何を思ったんだか知らないんだけども、数年ぶりに外を走ってみようかなと、そう思い立ちまして外に出たわけです。どういうわけかこの暑い日に限ってね、そういうことを思っちゃうんですよね。
そうしたらもう朝でも暑いのなんのって。もう蝉もね、僕は結構夏の日に聴く蝉の声も嫌いじゃないんですけどね、こう耳を澄ますというか、いや蝉の声なんてうるさいですからそんなこと普段はしないんですけども、どうやらその日は鳴いてないみたいだったんですよね。
もうね、遠くの方から聞こえる車の音しか耳に入らないといいますか、つまり蝉も暑過ぎて鳴けないんじゃないかと。僕はちょっと心配になったりもしましたけどね、えぇ。
なにせ僕は動物が好きですから、えぇ。あっ、いや、動物が好きって言ってもね、一概に言えないところがあって、その何というか僕ゴキブリがダメなんですよ。ゴキのブリちゃんがね。
あの何というかこう...動きが素早いところというかね、なかなかこう思い通りに、まぁ虫なんてそうそう思い通りに動いてくれるわけじゃないんだけど、それでもね、こう...彼らは飛びますよね。
あのね、そういう地面を張っていた虫がいきなり飛ぶっていうのが僕はダメですね、はい。

 

(沈黙)

 

―...なるほど。事件当日の朝は晴れていたということですね。 

A:そうですね。

 ―それで早起きしたばっかりに手元が狂ってうっかりスマホを落としてしまったと。

A:あー......まぁそう言っちゃえばそうなんですけどもね、いや実はその扇風機っていうのが親父がまだ独身だった頃の扇風機を未だに使っているっていう、これがもう40年...あっそんなに行かないですね。30年位前の扇風機を未だに使えちゃうのでね、捨てるのも勿体ないということで現在も使ってるんですけども、それがいつもは居間に置いてあるんですよ。その扇風機がね。
あの、でもその古い扇風機というのがですね、僕もあまり詳しくは知らないんだけども当時にしては結構いいものを買ったみたいで、あっ、親父が買ったんじゃなくて僕のお父さんのお父さん。だからおじいちゃんにあたる人がね、このおじいちゃんは僕が5歳くらいのときに亡くなっちゃったんでどんな人だったのかはあんまり知らないんですけども、そのおじいちゃんがね、買ってくれたみたいなんですよ。親父に。
なんでも親父が就職するってなったときに1人暮らしを始めるって言ったらそのお父さんのお父さん、その僕のおじいちゃんがね、新しい扇風機を買ってやると。それでね、どうせ買うならいいものを買おうじゃないかと、ちょっと値段は高くなるけどすぐに壊れるよりはいいってことで、当時にしてはね、本当に立派な、まだ冷房なんて一般的に無い時代ですからね。
まぁその所謂扇風機が最先端の家電、というかこう...涼しくなる...涼しくする機械としてね、一番新しいのが扇風機だった時代ですよ。その時代にね、こうして日本のメーカーの、随分と高い扇風機を買ったみたいで、それを僕がね、今親父から譲り受けて使用しているんです。
......ってあれ、何の話でしたっけ。あっいや、すいませんね、話が飛んでしまいまして。

 ―あっ、えぇと扇風機スマホ破... 

A:そうだ!そうですね、申し訳ございません。それでね......えぇと、そうだね。うん、まぁ...その扇風機ですよ。それが普段は居間に置いてあるんだけど、昨晩は暑いからということで就寝のための、その僕が寝るときに入る部屋にね、今日限りでってことで持ち運んだんです。
本来の僕の部屋にも扇風機は別にあって、あっ、そのお父さんのお父さんのね、おじいちゃんが親父に買ってくれた扇風機っていうのが居間にあって、僕の部屋にはね、元々別の扇風機が、その古い扇風機とは違うものが置いてあったんですよ。
これがね、たしか2012...2013年だったかな。近所に新しくドン・キホーテっていうね、何というかあれは...こう......あれは何屋さんというのでしょうかね。
まぁ洋服だったり靴だったり化粧品だったりがね、あとフライパンなんかも置いてあったりして、あっ、そこでね、このテレビも、見えますかね。これが2011年にそのドン・キホーテで買ったんですけども。
あの、ちょうどその頃地デジとかアナログとかね、テレビを変えなきゃ見えなくなりますよっていう、もういきなり国の偉い人たちが一斉になってそんなこと言うもんだから困ってしまいましてね。
その、僕はあまりテレビをね、見る人間ではないんですよね。平生は。だけどこう、たまに見たくなると言いますか、無いよりはあったほうがいいんじゃないのかと、そう随分と悩んでいたりもしたんですけども、結局こうね、何だかんだで見れちゃってましたから、当時はね。だからなんだよ見れるんじゃないかって、その時はあまりちゃんとね、地デジがどうとか詳しく考えていなかったわけですよ。
だけどね、こう、ある日テレビをつけるとこれが驚いたことにどこを押しても何だかよく分からないものばっかり映っちゃってて、これはどうしたものかと。それがその時は頭の中からね、地デジ対応とかっていうのをすっかり忘れちゃっていまして、それこそ僕はあまりテレビを観ない性分なものですから、それに気付くのがそこから随分と後の方になって、だからまぁでもその時ね、そういえばテレビを変えなきゃ見れないって言ってたな、なんてことをようやく思い出しまして、そこで僕はもう本当に世間の皆様に比べると遅いんですけども、ようやくテレビを買うことに決めたんです。

 ―なるほど、分かりました。それではこれにてインタビューを終了させていただきます。本日は貴重なお時間割いていただきありがとうございました。 

A:あっ、本当ですか。そうですね、あのこちらこそね、こんな田舎にまで足を運んでくださってありがとうございました。

 ―いえいえ、まだまだ暑いですからお体にお気をつけて。 

A:あぁ、ご親切にどうもありがとうございます。あの、もてなしなんてできないですけどね、またいつでも来てくださいね。

 ―いえ、もう来ないです。さようなら。

 

 

 

というわけで、本日は急遽予定を変更してとある田舎町の日常をインタビューした記事をまとめさせていただいた。
また日を改めて、「扇風機スマホ破壊事件」について取り上げることとする。(掲載日未定)