ハイレゾのストリーミングサービスは日本で浸透するのか問題
強いて言うならば、「ロイヤルホストとサイゼリヤ、どっちにする?」というおはなしに近しいかもしれない。
あるいは、100均で買った什器と、ニトリで購入したお皿との違い、と表現してもよいのかもしれない。
このあたりはあくまで推測であり、主観であり、偏見でもある。
なので、そういう価値観を持っている方もいらっしゃるのね、フフンッ。と鼻から息を漏らしていただければ幸甚至極。
何を言っているのかわからないですね。一番分かっていないのは僕です。
しかし「分からない」というところにこそこの問題の本質があると思っていて、まぁ要は「ハイレゾのストリーミングサービスってどうなのかな?」という題について今回述べてゆきたい。
ハイレゾというのは平たく言うと音質の良さを売りにした音源のことで、ヘッドフォンやイヤホン等にいくらか金銭を投入した経験がある方ならもちろん、そうでなくても何となく聞いたことがある単語ではないだろうか。
そんな「かなりいい音」が、「それなりにいい音」のSpotifyとかApple Musicのようなストリーミングサービスと競合してサバイブできるのでしょうか。そういう話。
文頭に記した脈絡のない世迷言の真意は、これで皆々に届いただろうか。
ちなみに今回の記事で、僕は24bitとか192kHzだとかFLACだとかDSDだとかを使うつもりは毛頭ありません。
あくまで恣意的で定性的な側面ばかりを突いていきたいと思うので、理系の方はいじめないでください。かくいう僕も理系なんだけど。
- ハイレゾ配信について
さて、本題に入る前に僕がこの記事に着手しようと思ったきっかけ、というか端緒はこのニュースである。
読んだ。へぇと思った。
AmazonといえばGAFAのひとり。ちがうな、一員。いや、一翼?
そしてご存知の通りAmazon Music Unlimitedとかいう厨二心をくすぐるネーミングで、現在までもストリーミングサービスを展開している。
そんな天下のAmazonさんが、今夏ハイレゾのストリーミングサービスを開始すると言いはじめたのだ。
なんという唐突なニュースだろうか。
そして僕は、かなりの驚きをもってこのニュースを受け止めた。
というのも、ハイレゾのストリーミングサービスは、日本で、否、世界でもかなりニッチで採算が合わないビジネスであるという認識を抱いていたからである。
ご存知の方も多いかもしれないが、実はこれまでに日本ではいくつものハイレゾ配信サービスが誕生しては、瞬く間にその一生を閉じるという繰り返しが起きていた。
およそ僕の知る限りでも、クリプトンのHQM Storeやグルーヴァーズジャパンのgrooversは今年6月に、JVCネットワークスのVICTOR STUDIO HD-Music.などなど。
どれも決して小さくない会社である。そんな強肩揃いの兵たちが立て続けにサービス終了したとあっては、そんな市場に新規参入などリスクが高すぎてそう易々とチャレンジできるものではないだろう。
いや、小さくない会社というのは当たり前である。
音源を扱うため利権関係に強みがあるのは必須。また、ハイレゾ音源は1曲あたりの容量が大きいため、それを快適に配信するための格納庫がほしい。零細にそんなシーズはないのでしょう。
ちなみに現在残っているのは、SONYのmoraやe-onkyo musicやOTOTOYなど。その他にもあるが、数えるほどしか存在しない。
moraは今年秋からmora quolitasというハイレゾストリーミングを開始予定だが、もともと今年春に開始する予定が延期されたことからも、ハイレゾストリーミングの難しさが窺い知れる。
- で、なぜAmazonが?
考えてみれば、だからこそのAmazonなのかもしれない。
Amazonの強みは、端から膨大な顧客データがあり、新規サービスとて改めて会員登録をする必要がないこと。
さらには、すでにストリーミングサービスを展開していることから、宣伝のしようによってはUnimitedの顧客を横流しできる可能性があること。
まだまだあるだろうが、パッと思いつくだけでも参入障壁が上述した他社よりも低かったことは明らかである。
それから、これはあくまで個人的な意見だが、Amazon Music Unlimitedは正直使いたいと思わない。
実際、競合の中でもLINE MUSICやSpotifyなんかよりも利用客数が少ないんじゃないのかな。Amazon Prime Musicは別として。
それはアプリの作り手本位のユーザビリティもそうなんだけど、邦楽の曲数的な意味での評判があまり芳しくない。
僕は洋楽メインなのであまり気にはならないのだが、国内のサービスとして国内の楽曲が少ないのは致命的だとも思う。
そんな現況を打破するための一案として、ハイレゾ音源ストリーミングは大きな突破口になる気がしないでもない。
また、来年にはオリンピックがある。
ちょうど有機ELや4Kのテレビに買いかえる人が続出するこの時期に「音質の良さ」を前面に出したサービスを開始するのは、かなりタイムリーで効果があるのではないか。
考えすぎかもしれないが、このサービスにより「画質の次は音質だ!」とネットワーク機能付ホームシアターやら高級ヘッドフォンやらが売れるかもしれない。
言わずもがな、Amazonで。
- そもそもなぜハイレゾ?
そうやって屁理屈と理想論と希望的観測を並べても、どうしたって気になる点がある。「なぜハイレゾ音源?」という点だ。
Amazonはトレンドの嗅覚がすさまじいというか、むしろAmazonがトレンドを形成していると評しても過言ではない。
電子書籍はKindleが一般的だし、スマートスピーカーといえば今やAlexaで、ネットで映画見るならPrime Videoでしょ、と。
そんな時代のリーディングカンパニーことAmazonが、今度はハイレゾの普及を虎視眈々と狙っている。いや、実際はもっと別のところに目的があって、あくまで起爆剤に過ぎないのかもしれない。
だが、Amazonはいつだって本気である。
先日よりAmazonはAudibleというオーディオブックを売り出し始めたが、そのお金のかけ方が尋常じゃない。
ハイレゾにいくら投じているのかは知らないが、天下のAmazonが鉛筆転がしのような博打に走るとは思えないのである。
であれば、少なくともAmazonから見て「ハイレゾは次に来る!」と見越しての戦略だろう。
たしかに僕はここ数年でハイレゾにハマった身だし、身の回りでも「350円のハイレゾ音源買ってみたー!」という人や、今年も東京で開催されたOTOTENの入場者数が増えているという話も聞く。
そのため、Amazonが参入するには打ってつけのタイミングであることは疑いようがない。
- でも個人的には否定的な立場
しかし僕個人の見立てでは、ハイレゾが流行るとはとても思えないのである。
理由は簡単で、お金がかかるからである。
僕はハイレゾ音源を聞くために昨年なけなしの貯金を崩してアンプとスピーカー等に20万円ほど費やし、理想のオーディオ環境を手に入れた。
だがこの金額はかなり安いほうで、本気でオーディオを組もうとすれば「学問のすゝめ」が100冊あっても足りないだろう。
もちろんヘッドフォンであればそこまで金銭をかけることなく、快適なミュージックライフが送れるかもしれない。
しかし1曲あたりの容量がかなり大きいハイレゾを恒常的に聴く行為は、快適なWi-Fi環境と膨大なストレージ容量を兼ね備えたときのみ有効で、おそらく適用される「初月30日間無料」から後も継続する人の割合は果たして如何様なのか。
また、常にヘッドフォンやハイレゾ対応のオーディオ環境で聴くならまだしも、スマホのスピーカーでハイレゾ音源を流したところで、もはやYouTubeの音源と何ら変わらない。
仮にちゃんとした設備を整えたところで、相当に耳の肥えた人でなければ楽しめないことも多いだろうし、なによりストリーミングとは「いつでもどこでも」音楽を聴けることが売りであるはずだが、それがハイレゾでは破綻しかねない。
そして極めつきは月々2000円という金額。
たしかに、ハイレゾ音源を購入しようとすれば1曲350円ほどするので、単純計算で6曲聴けば元が取れる。
だが、そこに価値を見出す人がどれくらいいるのか。
これは100人中80人以上が~みたいな話ではなく、100人中1人が興味を持って、そのうえで課金をしてくれるか、という話。
いずれにせよ、もし無料期間があるならばぜひとも使ってみたいし、そこで価値があると判断すれば課金することも吝かではない。
なにより、僕は数年前ハイレゾ音源に感動してからどっぷり沼にはまっているタイプの人間なので、基本的にハイレゾの社会的浸透はウェルカムなのだ。
だからこそ、世間的にハイレゾ音源がちゃんと普及してくれるのかが心配でならない。
いずれにせよAmazonという大きな企業がこの業界に足を踏み入れた結果、どのような結末になるのかはとても興味深いので、最後まで見届けたいと思う次第である。