お金がほしい

お金がほしい

2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

地方学生が就職活動を終えて思うこと

米粒ほど小さな、ひどく個人的な話ではあるのだが、先日就職活動をようやく終えたのでここに報告しておく。
まぁ、このブログで通告もしていなければ開始時に宣言もしていなかったので、皆さんにとっては本当に「あぁ、そうですか」程度のお話でしょうが。

ともあれ、進路として就職を選んだ大学4年生の通過儀礼終結したということで、なんだ、その、おめでたい話じゃないですか。
僕としては「ま、ここでいいかな」と、40%の妥協と20%の納得、40%のモヤモヤを残したまま終わりを迎えたのであるが、親類からは「本当におめでとう」とか「苦労が報われて良かったね」などと、さもノーベル賞を受賞したかのような褒辞と労いの言葉を受け、絶賛混乱中。

でも、そのくらい就職活動というのは大きな変化を伴う、人生における重要なイベントのひとつだということだろう。
そしてお気づきのとおり、僕はまたそんなターニングポイントを適当な心持で迎えてしまった。人生とはいつだって後悔の繰り返しである。

 

しかし、就職活動中は色々な出来事があった。
ブログに認めるほどの内容ではない気もしたのだが、チリツモという名ゼリフもあることなので記憶から吹き飛んでしまう前に書き記しておこう。


僕は静岡県民ということで、基本的には静岡に本社のある企業はもちろんのこと、それ以外にも東京やら名古屋やらと繰り出していった。

静岡に事業拠点があっても本社だけは東京都港区に置きたい企業が意外とたくさんあるらしく、説明会やら面接は東京または大阪のみの開催と見栄を張っていたのがなんとも微笑ましい。
その見栄のせいで交通費を搾取され続けた日々。僕のバイト代3か月分は一瞬にして泡沫と化しました。ぜんぜん微笑ましくない。笑えない。


そう。地方学生にとって、就職活動とは試練なのである。
往復で新幹線を使えば1万5千円。PS4の新品ソフトを2つ買ってもお釣りがくる金額を、たった数時間、あるいは数十分のために費やす日々。

節約しようと高速バスを利用すれば、片道5時間。
おまけに道路は混雑が読めないので、時計と渋滞情報をひたすら交互に見る日々。2ヶ月経ったころには肝を冷やしすぎてポン酢ともみじおろしをかけたくなるレベル。


エントランスをくぐると、採用担当の女性が出迎えてくれる。
どうして東京の採用担当者ってみんな美人なんでしょうね。アナウンサーなの?


その方に名前と出身大学を告げると、どの会社でも例外なくこう返される。

「え、今日は静岡から来てくれたの~!?朝早かったでしょ、大変ですね~!」

最初の頃は嬉しかったが、同じセリフばかり聞き続ければだんだんと「そのセリフはマニュアルに書いてあるんですか」と返したくなってくる。
おまけにグループワークで学生相手に自己紹介すれば、同級生から「え?このためにわざわざ静岡から来たの?かわいそう~!」という謎の慈悲をかけられる始末。そのセリフを言うと一次試験の突破率が上がるみたいなジンクスでもあるんか。

とまぁこのように、地方の学生は東京人に憐れみの言葉を頂戴するケースが非常に多い。
どうして東京人は、東京に本社を置く企業がたくさんあることを知らないのでしょうか。いや、違う。きっと会話の糸口としてそう言ってくれているだけなのだ。

だが、さすがにそればかり言われ続けるとうるせーよとなる。
たまに北海道の子が東京に来ていたり、岡山から静岡まで新幹線を乗り継いで来ている人を見ると驚くほかないのだが、とにかく就職活動というのはかなりJRに貢献している。

なのでJRは就職活動応援キャンペーンみたいなことをしてくれると嬉しい。
数ヶ月で10万円以上落としたので、これくらいは言ってもいいでしょ。ね。


さて、それから話は面接に移りまして、学生が1人の場合は大体聞かれることも答える内容も同じなのだが、学生が2人以上のばあい、大変に面白い。

頑張って志望動機を憶えてきた結果、棒読みになってしまう男の子。
お前は舞台女優になれよ、と思うほど演技派の女の子。
書類通ったからとりあえず来ました感満載の、受け答えボロボロ眼鏡。
逆質問タイムで奇を衒いすぎて面接官と学生を困らせる電波系女の子。

などなど挙げればキリがないのだが、様々に個性があってとてもとても面白い。
きっとこの子はたくさん練習してきたんだろうなとか、面接官にハマってないのにキャラを押し通し続ける神経の太さに感動する場面やら、一時期趣味の欄に「人間観察」と書いていた僕からすれば至高の時間だった。

まぁ、とはいえ僕もそれなりに本気で取り組んでいたので、人様から見れば僕も「○○なキャラ」という風に捉えられていたに違いない。

上にも書いたが、面接なんて面接官にハマるかどうかが鍵なので、正直どんなに良いことを言ってもキャラが合わなければ落とされる。
正直なところ、面接を運ゲーというのはあまり好きではないのだが、しかしこればかりはどうしようもなく運が関わってくるものだと思う。

たとえば出身地や高校が面接官の所縁の地であればおそらく通過するし、人によっては趣味の話をしていたら内定をもらっていた、なんて話もあるそうだ。

グループ面接で「将来やりたいことは?」という質問を受け、普通ならば「○○ということがしたい。それを達成するために御社で働きたい」と答えるところを、「彼女がいるので、幸せにしたい」と真面目な顔で語っていた奴がいた。
僕は隣で噴き出してしまったのだが、なぜか面接官の感触がとても良く、ソイツはきっと通過したのだろうという匂いがした。

そんなのないでしょと。
説明会受けてESと履歴書を書いて、時間とお金をかけてわざわざ面接に来たのに、こんなヤツ相手に負けるのかと。そんなの薄情すぎるぜと。

そう考えるよりは、「運がなかったんだな」と一蹴するほうが遥かに健全であり衛生的である。

面接官も人間である。やっぱり合う合わないというのはあるものだ。
一介の学生に、そんな表面的な好みを越えた圧倒的な実力と受け答えができるはずもなく(もちろんできる人はいるだろうが)、介在するのはきっと運なのだと思う。

演技派女優がどんなに頑張ろうと、もし僕が面接官なら落としてしまうかもしれない。
それとなく真っ当な理由はつけるものの、真意としては「ただなんとなく気に食わないから」というおはなし。そしてその女優の顔面偏差値が有村架純だったら、まぁ間違いなく通過させちゃうんでしょうね。なにこれもうやだ。

 

というわけで、4ヶ月ほどの就職活動を経て、僕は少しだけ大人になった気がする。
大人になるとは偉くなるということじゃなくて、社会を知ってゆくということだろう。

人によってはそれを「汚れてゆく」「純真さを失う」と表現するかもしれない。しかし、それもまた生き抜くための知恵なのだと割り切るほうがずっと楽しい。

そうして「俺たち汚れちまったなぁ」と語らいながら胃に酒を放り込んで、肝臓に負担をかけていくのが人生なんでしょうね。本当にありがとうございました。