お金がほしい

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先に謝っておきます。ごめんなさい。

嘘から出たまことくん(13さい)

おめでたいことに先日ついに姪が生まれ、はれて僕は「叔父さん」になったわけであるが、日常における変化というものは自身のモノの見方や価値観にまで影響を与えるらしく、どうにも最近「絵本」が気になるようになった。

絵本といえば「泣いた赤鬼」とか「桃太郎」「さるかに合戦」あたりがあまねく知られている部類だと思うが、改めて読み返すと総て教養があってなんと面白いことか。いとをかし。

 

絵本には映画と同じようにストーリーがあって登場人物がいて、そしてきちんとオチがついている。

東京五輪の開会式では「起承転結」がテーマと決まったらしいが、当然ながら絵本にもその法則が適用されている。

それどころか、映画ではやや難解になるラストシーンにいたっても絵本では知能指数の低い子供にきちんと伝わるような表現で書かれており、主人公やその取り巻き、悪役などの立ち位置が明確で構造が分かりやすい。そのうえとてもタメになる。なにそれ絵本ってすごい。

 

上述した教養というのも、「他人に酷いことをしてはいけない」「嘘をついてはいけない」など、日常生活において大切にすべきことばかり。どこぞの著名人が絵本に手を出すと大抵の場合自分本位のストーリーを組み上げたあげく実用性に欠けた内容になることが多い気もするが、映画と違って基本的にハズレがないコンテンツというのも珍しい。

まぁ僕はこのブログで嘘ばかり書いているので、きっと「オオカミ男」の絵本は読んだことがないのでしょうね。なんてかわいそうな男。

 

 

それこそ嘘というのは、「夢を言い続けているうちに現実になる」みたいな精神論に近しい言説や巷説らしきものは結構あって、かつて私の知り合いであった某氏は、こんなことを語ってくれたことがあった。

 

 

 

ある日、僕がまだ中学校を卒業したばかりのころ、数年ぶりに某氏のもとを訪れると彼は、

「『嘘から出たまこと』ってよく言うだろ?あれはホントのことなんや」

僕が家に入るなり息つく間もなくそう言った彼の目は、何かもの言いたげなそれであった。本来ならばお茶でも出してもらおうかと考えていた僕であるが、性急に続きを述べようとしているその血眼を見て、僕はとりあえず話を聞かせてもらうことにした。

 

某氏は語る。

「信じてもらえんかもしれんがな、ついに俺のもとにも出たんや」

「出たって、なにが」

「なにってそりゃお前、まことに決まっとるだろ」

「まこと?」

「そう、まことくん。13歳や」

「・・・じゅうさんさい?」

 

こやつはなにをのたまっているのだ。何を言っているのか分からない。何を言いたいのかも分からないし、脈絡がなさすぎて論理が破綻していた。

彼は13歳と言いながら指では片手で5本、他方で3本の計8本を出していたのも意味がわからない。あと誰だよまことくん。

 

「…えっと、つまりどういうこと?」

「どういうこともそういうこともないわい。俺がな、このまえカミさんにちょこーーっとだけ嘘をついたんや。ほんのちょびっとな。そうしたら突然目の前に男の子が現れてな、こう言いよる。『こんにちは。ぼくはまことです。13歳です』ってな」

「・・・はあ」

「ほいだら俺は内心めちゃくちゃ驚いてるんだけどな、ポーカーフェイスっちゅうの? 意外と冷静でおられたんや。そんで『どうしたの?』って聞いてみたんや。そうしたらまことくん、なんて言ったと思う? ちょっと考えてみい」

「…え?」

 

いきなりすぎる質問。分かるわけがない。

田舎すぎて近所に店舗がないんだけど、もしかして「いきなりステーキ」ってこんな感じでステーキが出てくるのかしらん。やだ怖い。

なんてことを考えているうちに彼の口は再度開かれた。

 

「そしたらな、『まことです。いきなり出てきてすみません』って、そう言ったんや」

なんだよ、意外と普通の答えだった。もっと衝撃的な発言があったのかと思いきや、なんてことない日常あいさつ。

ちょっとジョイマンっぽくて予想はつかなかったものの、礼儀がなっててよろしい。

 

「俺はなぁ、そのとき感動したんよ。13歳の男の子がな、とつぜん出てきてしもうて、最初は戸惑ったんだけどな、でもとにかくいい子で、俺は感動してたんや。そんでもう一回な、『まことくんはどうして出てきたの?』って聞いてみたんよ。そいだらまことくん、なんて答えたと思う? ちょいと考えてみいや」

 

んな無茶な。というかさっきから薄々感じてはいたが、彼は僕の返答など全く気にしていないのではないか。僕がここで脳みそフル回転させて答えなくても勝手にまた話し始めるのではないだろうか。

あといいから教えてくれよ誰だよまことくん。

 

「えぇと…」

「おっ、なんやなんや?」

 

意外な食いつき。とりあえず考えたふりをしておこうと思ってテキトーにそう発したのだが、かえって裏目に出てしまうとは。

しかしここまできたら何か言うしかないだろう。

 

僕は考える。そして口を開けた。

「えっと、『まことです。いきなり出てきてすみません』とか?」

「それほまことくんが最初に言ったやつや。まことくんはな、おんなじことを何回も言う壊れたロボットではありましぇん!」

 

違った。無念。

 

「・・・いいか、まことくんはな、『あなたが嘘をついたから出てきました。まことです』って、俺に向かってたしかにそう言ったんや」

どうしてヒロシ風? いや、そんなことはどうでもいい。

当時の僕は、突如始まったよく分からない話を聞きながら、その続きが無性に気になってきていた。

 

「おじさんが嘘をついたからまことくんが出てきたってこと?」

「そういうことや。ただなぁ、まことくん、どうやらカミさんには見えてないらしいのな。ほんだで誰に相談もできんで、どうしたらいいんかなあと途方に暮れてたんや」

 

まことくんは彼にしか見えないらしい。なんだかどこかで聞いたことのあるような設定である。

 

「だからな、とりあえず俺はな、まことくんに聞いてみることにしたんや。『まことくんはこれからどうするの?』ってな。ほいだらまことくん、こう言いよる。『あなたが嘘を撤回したら僕は消えます』ってな」

「…おぉ」

 

まことくんは嘘がなくなると消えるらしい。なんだかどこかで聞いたような設定である。

 

「だけどな、消えるっちゅーことはつまり、俺が嘘を撤回したらまことくんにはもう会えないんかと思うとな、なんだか寂しくてなぁ。そのまま結局まことくんと1ヶ月一緒に暮らしたんやけど、」

「1ヶ月! ・・・まじか」

「そうこうしているうちにな、いつしかまことくんが夜になると月の出ている方を見てしくしくと泣くようになったんや。その顔がな、あまりにも悲しげだったんでな、俺はまた聞いてみることにしたんや。『まことくん、今度はどうしたの?』ってな。そうしたらまことくん、何て言ったと思う? ちょっと考えてみいや」

「・・・月に帰らなくてはいけない」

「ビンゴや。なんで分かったん? もう俺の話すこと無くなったやんけ。ほいでまことくん、翌日の夜に『さよならー』言うて、そのまま月に帰っていったんよ」

「へえ」

「・・・・・・」

「・・・・・・え? 終わり? それで終わり?」

「なにをそんなに驚くことがあるん。まことくんが帰ったら終わりだろ。お前も答え当ててしまって、もう俺の話すことないやん」

「いや、だから月に帰るときのひと悶着とかなんとか…」

「ひと悶着なんて何もないがな。引き止めたらまことくん悲しむだろうし、カミさんには見えてないんだから、俺一人でどうにかなるもんでもないんや。そら俺だって悲しいけどな、大声で喚いたところで隣の加藤さんにまた通報されるのがオチやで」

「え、通報されたことあるの・・・」

 

なんという悶々とした終わり方だろうか。

決してハッピーエンドを望んでいたわけじゃないけど、なんというか起承転で終わった気がして非常にもどかしい。

 

もし1000円を出して続きが聞けるのであれば、もしかしたら僕は潔く支払ったかもしれない。

 

 

すると突然、ガタンッという音とともに僕らの背中側の扉が勢いよく開かれた。誰かが入ってきたらしい。

 

「あっお父さん、こんなところにいた! 酔ってるんだから静かに隅っこの部屋でじっとしてなさいよ!」

 

入ってきたのは某氏の妻であった。彼を見つけるやいなやそう怒号を飛ばした彼女は、呆れ顔で男を見つめている。

 

「俺が酔ってるわけないだろ。お酒なんて1ミリも飲んでないんやから」

「昼間からビールを3缶開けた人がよくそんなこと言えるわね。それこそ酔ってる証拠よ、まったくもう…」

 

吐き捨てるようにそう言った彼女は、これ以上なにを言っても無駄だと勘づいたのか再度扉に手をかけるとみたび勢いよく閉め、そのまま何処かに行ってしまった。

 

「ははは、怒られちゃったね」

 

僕は慰めのつもりでそう言ったのだが、返事がない。

あれ? と思い彼の方を振り返ると、彼は目を丸くして明後日の方向を向いていた。何をしているのだろう、ついにトチ狂ったのか? などと思っていると、彼は先ほどまで饒舌だった口を静かに開けてこう呟く。

 

「お前、まさかまことか…?」

 

男はおたおたと歩き出し、目には涙をこしらえていた。

 

「・・・・・・」

 

その様子を傍で見ていた僕。例に倣って僕もそっと扉を開けると、おじさんのうろつくその部屋を後にしたのであった。

 

 

 


世の中は様々なことがある。

信じられないこと、もどかしいこと。始まりがあれば終わりがあると思いきや、尻切れとんぼになることだって多々ある。

 

けれどもやはり全ての事象は教養を孕んでいて、このとき僕が得たのは「昼間から飲みすぎるのはよくない」という戒めの感情であった。