お金がほしい

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2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

美容院における髪型ファントム現象の謎

長くなって収拾のつかなくなった髪を先日ようやく切りに行こうと決意したのだが、さてどこへ行こうやらと。

僕は基本的に髪に執着しないというか、あまりコストをかけたくない人間なので、正直短くなればどこだっていいのである。
ちなみにコストというのは散髪料に加えて髪をセットしたり寝癖を直したりという時間的コストも含まれている。

朝起きて、普通の人ならば顔を洗い飯を食べて髪をセットしてお出かけになるのであろうが、僕の場合は朝起きてから家を出るまでに鏡を見ないこともざらにある。
どうやら寝相がいいらしい僕はここ数年寝癖がついたことがないのも幸いして、あと面倒臭がりなのも相俟って、髪の毛が100本くらい大量に抜け落ちるなどの非常事態発生でもしない限りそのまま家を出る。


というか僕は家を出た後はほぼ100%自転車に乗るので、髪なんてセットしてもどうせ意味ないんじゃね?とか思ってしまっている。

だからたまに朝一で車に乗ると、バックミラーという凸面鏡に映った自分の髪型を見て唖然とするわけだが・・・って何の話だったっけね。

 

まぁ要するに、髪を切りに行ったわけですよ。
これまで中学生のときから同じ美容院に行っていたんだけど、そこで担当してくれていた人が急遽やめてしまうということで、ならばせっかくの機会だしお店ごと変えようかなと。

正直おしゃれカットとか毛染めとかに興味がないのに、行くたびに「今日はワックスつけていきますか?」「最後に軽くパーマとかあてます?」なんて訊かれていたのでさすがに最近鬱陶しくなり辟易していたのも事実。
僕の髪質でパーマなんてあてたら、どこからどう見ても寝癖が爆発している人にしか見えないだろうし、というかそもそも軽く当てるってなんだよ。それって「先っぽだけだから」と同じ理論なんじゃないの?


まぁ、まず美容に無頓着な人間が美容室に通っていたのも間違いだったのでは?と思いまして、これからは「美」とか「サロン」とか付かないお店に行こうではないかと。
そう思って色々調べたんだけど、普通の床屋や理髪店だとカットだけで4000円とかするのね。

おまけに田舎特有の情報リソース不足というか、店名は分かってもカット料金が不詳の店ばかりで決めあぐね、結果近所のお店に片っ端から電話して安いところに行くことにした。


1000円カットという選択肢も当然ながらあったわけだが、失敗されると困る。
行かずしてイメージだけで語るのは申し訳ないが、1000円カットというのは腕はいいけど一匹狼系の放浪者タイプか、毛剃りのたびにお客さんの肌を血だらけにするようなうっかりさんしかいない気がしてならない。

ファッションに無頓着というのは、イコール髪型がどうでもいいというわけではない。
むしろ小学生から髪形を変えてないという点において、こだわりが強いと言ってもいいかもしれない。

髪型と服装に関しては僕は根っからの保守派なのである。

 

だから「今日はどんな髪型にしますか?」と言われると毎度同じセリフを返しているのだけれど、やっぱり人によって解釈って変わってくるものなんだね。
特に最近はお客様至上主義というか、おそらく予想よりも切りすぎてしまった場合に激昂して料金返せとかのたまう輩が多いのでしょう。初めてのお店だと、程度が分からないからなのか、ものすごく慎重に切りあげてくる。

 

「どうしますか?」
「もう少し切りますか?」
「ちょっと切りすぎましたかね?」

 

怒涛の質問ラッシュ。
アンタ過去にいったい何があったんだよ。


しかし最後に後頭部を鏡越しに見せてくれるやつ。あれを見る限り、「アレ、思ったより短くなってるし良いんじゃね?」などと思い込んでしまう。
ちょっと触ってみても、「あ、意外と短くなっているんだなぁ」としみじみ感心。
おまけになんだか前髪も決まっているような印象。あれ、ひょっとしてもしかしてともすれば僕ってイケメンなのかい?


そして鏡越しに映るは、心配そうにこちらを見つめる美容師の瞳。
「ご不満があれば手直しいたしますので」などと言ってくれているが、実際すぐにでも僕という客から解放されたいに違いない。

おまけに「じゃあもうちょっと頭頂部だけ短くしてもらって・・・」などと頼むと、表面上は笑顔で「はい、もちろん!」と応じてくれるものの、心底では「チッ!じゃあもっと早く言えよ!」なんて思われてしまうに違いない。


・・・なんていう逡巡があるわけでもなく、美容室の鏡というのは僕という存在をそれはそれは美しく映し出してくれる。

なんだったら髪を切る前に「今日はどのようにしますか?」と訊かれている最中も、「あれ、このくらいだったらまだ切らなくてもいいんじゃね?」とまで思ってしまうレベル。

なので、後頭部を映してくれる鏡(あれ何て言うの?)で「どうですか?」と訊かれると、いつも数回頷きながら「はい、大丈夫です」などと返事してしまう。

 

そうやってお金を払っていつも満足げに店を出る。
軽くなった頭部と、店を出る前に鏡で見た自分のイケてる姿。


おうちに着いたらもう一度鏡で見てみよう!
嬉々として自宅の鏡を覗き込むと、そこには腑抜けた仏頂面のブサイク男。

それはやっぱりどう見ても僕だった。

 


ちくしょう、こんなはずじゃなかったのに。