台湾旅行記 狂乱のホテル篇 3
油断大敵。
大概の場合、何かを為そうとする際は思わぬところに綻びが生じていたり穴が開いていたりするので、万全に万全を期すのが通例である。
だが当時の僕らは若かった。
若いという、ただそれだけで一点突破できるような都合のいい世の中ではないから失敗したんだけど、でもそれにしても気を抜きすぎていた。
失敗というのはつまり成功しないことだが、成功というのは失敗しないことではない。
この不可逆性こそがまさに僕らの知りえない「常識」というものの正体であった。
とはいえ、今さら何を言ってもあとのまつり。
亡羊補牢という四字熟語もあるけど、やっぱり羊が逃げた後で囲いを修繕してもあんまり意味がないと思うんだ。
何に裏づけされたわけでもない完全なる自信と根拠も論拠もない驕りが、結果として僕らの心に隙を作った。
それが今回の敗因であり、強いて言うならば反省すべき点だ。
けれどまぁ。
たしかに今回の目的は「K西くんのイチモツを見る」というものだったけど、それと同じくらい「暇つぶし」という目的もあったわけなので、その手段として目的はある程度達成されたことになる。
ものの数分の出来事だったが、たしかに時間は潰せたし、それなりに楽しかった。
これもまた後々思い出すことになるであろう修学旅行の思い出の1ページになるのだと、その程度の話なのだ。
だから僕らはこの失敗により自らをひどく責めたり落ち込んだりということは一切しなかった。
それどころか、「AO木の野郎、鍵かけるとかズルいぞ!」みたいなやりとりを笑い混じりに語り合っていた。
そしてそれからまた数分が経ち、K西くんはシャワーから上がったようだった。
例により隣の部屋で駄弁っていた僕らは、K西くんがシャワーから戻ったタイミングで再度そちらの部屋を訪れた。
くすねたカードキーを返却するためである。
さきほど奇襲をかけた僕らであるが、それでもその時は誰もシャワーを浴びていなかったためAO木くんもすんなりと扉を開けてくれた。
もちろん盗んだカードキーで開けようとしたらチェーンがかかっていたが。
そして部屋に入るなり僕らは事のあらましを告げ、そして持ってきたカードキーを元あった机の上へと戻した。
話を聞く限り、AO木くんにはどうやら僕らが押しかけるのではないかという予見があったようで、そのため僕らの進入を阻むことができたらしい。
ということはつまりAO木くんにとって僕らの信用度はかなり低いんじゃないかという気がしないでもないけど、まぁそこはいいや。
AO木くんは、彼の知り合いでなくともなんとなく分かるだろうが、どちらかといえばいじられキャラである。
初対面の相手が彼のことをイジるとなかなか面白い返しをするので、強面の先生からヤンチャな野球部あたりにまで幅広く彼の名前は知れ渡っていて、なんだかんだ愛されていた。
そんな彼だからこそ、あるいは僕らの計画を見抜けたのかもしれない。
見抜けはしなくとも、何かを察知できたというのはそういうことである。
だから今回は僕らの負け。
K西くんのビッグなトーテムポールが見たかっただけで、AO木くんの体にはこれっぽっちも興味がないという旨を伝え、僕らはまた自分たちの部屋へと引き返していった。
部屋に着いた僕らは、ほっと一息。
カチャンという乾いたドアの音を最後に、僕とU原くんの間には気持ち悪いくらい重苦しく静謐な空気が漂っていた。
第一ラウンドで完敗を喫し、AO木くんにしてやられた僕ら2人は、ベッドに座るでもなく立ち尽くす。
「・・・・・・フッ」
するとここでため息にも似た、噴き出すような声音が耳に入る。
僕の声だ。
「・・・ヘヘッ」
続けて笑い声。こちらはU原くんのもの。
「・・・完璧だな」「いやぁ完璧だね」
僕らは笑いあった。
というか、笑うしかなかった。実際そうだった。
僕らは口元の緩みを収めることもせず、ただただニヤニヤと相好を崩して言う。
「よし、次はAO木くんの番だ」