お金がほしい

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2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

台湾旅行記 狂乱のホテル篇 2

人知れず決起した僕とU原くんは、計画の第一段階に突入した。

それはK西くんが「そろそろシャワーを浴びようかなぁ」と言った直後から、すでに始まっていたのだ。

差しあたって僕らは、役割分担を決めた。
この作戦は2人以上でないと成し遂げられない、そう確信していたからだ。

だがもちろん、K西くんがスーツケースから着替えを取り出している真横で作戦会議に没入するのはあまりに軽率かつリスキーだ。

そのため僕らは人間的コミュニケーションの最終奥義、アイコンタクトを駆使して計画を遂行していった。

とはいえ皆さん思うであろう、アイコンタクトだけで意思疎通を図ろうとするのはさすがに無理があるのではないかと。
もちろんその意見は正しい。

だが忘れてはいけない事実がある。
それは僕とU原くんは中学生の頃同じサッカー部に所属し、そして共にディフェンダーというポジションを担っていたということだ。

サッカーというのは試合中「ヘイ!」とか「おいっ!」とかでやりとりするので、それ以外は相手の体勢や姿勢、動きから察知・判断することが必要となる。
そんな苛烈な環境で数年だけとはいえ共に戦い抜いた僕ら2人の結束は、そう易々と打ち破れるものではない。

ましてや高校2年生、部活を引退してから数年しか経っていないその頃ならば尚更だ。

よって僕らは自然かつスムーズにそれぞれの役割を決め、U原くんがK西くんたちと会話して2人の気を逸らしているうちに僕がこっそりカードキーをくすねるという算段の元計画を実行した。


だが、「まさかクラスメイトがカードキーを盗むなんて下衆な行動に出るはずがなかろう」と高を括っている2人を相手に隠密行動をとるのはあまりに容易だった。
計画は実行に移すと同時に完了し、それをアイコンタクトでU原くんに伝えると、彼は適当なところでK西くんたちとの会話を切り上げ、そして隣の部屋へと退散した。


まさに完璧だった。
扉を閉めると同時に笑いがこみ上げてきて、それを我慢するのに苦労した。

あまりに事がうまく運びすぎると却って心配になるものだが、今回ばかりはそれからの成功を確信して笑いが止まらなかった。

そして隣の部屋に戻り、ようやく言語コミュニーケーションを許された僕らはゲラゲラと笑いあった。

「完璧だな」「これでK西のイチモツをカメラに収められるぜ!」
僕らはこうして最低な発言を繰り返していた。

だがここまでゲスい行動を書いているだけだと、読者の皆さんが「うわっ、コイツらキモッ」とか言ってサヨナラしてしまうかもしれないので、念のため僕らの行動目的を述べておく。

というのも、K西くんはかなりの巨根で有名だったのだ。
あれは中学1年生の春、まだお互い顔も名前も知らないような時期に勉強合宿なる行事をおこなったのだが、その研修先の風呂場でK西くんのイチモツを目撃した野球部員が「K西くんヤベェ」と驚きの表情を顔に滲ませながら廊下を歩いていた。

それから瞬く間に「K西くんはヤバいらしい」という噂が広まり、いつしかそれが男子の中での共通認識となっていた。

ちなみに僕も一度だけ目撃したことがある。中学2年か3年生のときだ。
それはプールの着替えの際、偶然K西くんの近くで着替えていたところ、タオルで隠し切れなかったそれが顔を出した。

僕の横にいたY下くんもそれを目撃したようで、短小に悩んでいた彼はK西くんのあまりに異次元過ぎるそれを見て文字通り目を丸くしていた。


そして、それから数年。
彼のイチモツは、その後どのような姿に変貌しているのだろう。どんな姿を僕らに見せてくれるのだろう。

その超自然的な欲求を僕が抑制することができるはずもなく今回の行動に至った、という経緯である。

それを聞いてもなお「うわ、キモッ」と思うのならば、それはもうしょうがない。
僕らはきっとキモいんでしょう。えぇ、認めますとも。

ただね、男子高校生なんてマジでそんなもんだって。
クラスで誰か1人くらいいたでしょ? 昼休みに無理やりパンツ脱がせてチンコ見たがったやつとか。

大した意味はないんです、ホントに。
・・・まぁ、大した理由もなく被害に遭うK西くんにとってはただの災難でしかないが。


そして僕らはしばらく部屋で待機して、頃合いを見計らい隣の部屋へと進入しようとした。

隣からはかすかにシャワーの音が聞こえ、タイミングはバッチリだと思われた。

 

そうしていざ出陣!というとき。
僕らは音を立てずに自分たちの部屋を出て、彼らの部屋の前に立った。

2人はニヤニヤと不敵な笑みを漏らしながら、ゆっくりをカードキーを扉に翳す。

そしてカチッという鍵の外れる音が廊下に小さく響いた。


僕らは2人、うん、と頷き、力任せに扉を開けた――――と、そう思ったのだが。


なんという想定外だろうか。
開錠された音に気付いた同室のAO木くんが、決死の勢いで僕らを部屋に入れまいと奮起してしまったのだった。

AO木くんは、陸上部において砲丸投げ円盤投げの投擲選手である。
腕力で僕ら2人が敵うはずもなかった。

 

結局のところ、AO木くんがチェーンをかけてしまったため、そこで僕らは諦めがついた。

人には勝ててもチェーンには勝てない。いや、人にも勝てなかったけど。
名探偵コナンでチェーンの外し方とかやってた気がするけど、そんなの覚えてないし無理だわ。

 

そういうわけで、第1ラウンドは僕らの完敗にて閉幕したのである。