貯めていたTポイントがいつの間にか無くなっていたときの絶望感を味わったことありますか?
「絶望」とは一体どんなときに使う言葉だろう。
実際本当に望みが絶たれた状況に立たされたとき、おそらく人は何かを考えることなんてできやしないと思う。
まぁ強いて言うならば「あれは絶望だった」とか「あの時は本当に絶望的な状況だった」とかのような、後日談として過去の災いを振り返る際にこの「絶望」という言葉を使用するのではないか。
ただしそれは災厄に限らず「幸せ」や「平和」のようなものも同じで、不幸や混沌に陥ったときに「あ、あのとき私は幸せだったんだな」と悟るのが世の習い。
これが所謂「失ってからはじめて気付く」というJ-POPの歌詞にありがちなランキング上位の常套句。
人間というのは往々にして目の前に起きている現象にのめり込む生物なので、つまりその時ばかりは客観性を失っている。
よって自分が今どのような状況下にあるのか、正しく判断できない場合が多い。
これができるのはせいぜい海に来たとき「海だぁーー!!」と叫ぶくらいなものであろう。
おっと、いきなり話が逸れてしまって申し訳ない限りなのだが、つまり何が言いたかったのかというと、昨日起きたとある出来事が個人的に「絶望」だったのだが、これは果たして本当に「絶望」だったのだろうかということ。
まぁ「とある出来事」というのはタイトルにもあるとおり貯めていたTポイントがいつの間にか消えていたということなのだが、これは客観的に見てどうなのだろうかと。
というのも、僕は数年前からTポイントを貯めていた。
別にそのポイントが増えたとてこれといって使う当てなどなかったが、しかし現金代わりとしても利用できるなら無駄にはなるまいと思いそれ以降は頻繁にTカードを提示する機会も増えた。
ガソリンスタンドやガスト、それから近所のドラッグストアに至るまで、たとえ付加されるのが1ポイントだったとしてもレジでは律儀にTカードを出し、そして数年かかってようやくポイントは1000を超えた。
もちろん「Tポイントが貯まるから」という理由で店を選ぶなどの本末転倒な行動はせずコツコツ貯めていったので、実際ここまで来るのにかなり時間とお金を費やした。
だが1000ポイントを超えるとなんだか嬉しくなる。
それはまるで受験勉強の努力が報われたときのような、プレゼンで高評価を得たときのような満足感。
これまで自分が少しずつ積み上げてきたものがようやく形になり、しかもそれが目に見えて上々な成績であればその達成感たるや計り知れない。
だがここまで来てしまうと今度は逆に落とし所が掴めないというか、どのタイミングでそれを手放すべきかが分からなくなってくる。
ポイントは貯まる一方なのに、それを使うタイミングがない。
仮にあったとしても、これまで積み上げてきた4桁を崩すのは些か気が引ける、といった具合に。
だからそれまでにも端数というか、例えば1280ポイント貯まっていたときには80ポイントだけ消費するといったことはしていたものの、100ポイント以上の大胆なポイント消費には未だ踏み切れずにいた。
しかしそんなある日。というか昨日。
ふとYahoo Japanに登録してあるTポイント数をチラッと見ると、そこには目を疑う光景があったのだ。
なんと昨日まで1400円分あったはずのTポイントが0になっている。
通常ポイントも、期間限定ポイントもまとめてごっそり姿を消していた。
「こ、これはどういうことだ?」
震える右手でリロードを繰り返しても表示される結果は同じ。何度見ても0ポイント。
一時的なシステムの不具合なのか、はたまた有効期限が切れてしまったのか、いやいや、前者はともかく後者はまずあり得ない。
1週間に一度は期限をチェックしていたし、最近は期限が近づくとシステムがメールで教えてくれてもいた。
だから今更期限切れなんて凡ミスを犯すはずがないのだ。
とそんなことをめぐらせていたその時、僕ははたと気付いた。
「そうだ、ポイントの使用履歴が見れるじゃないか!」
Tポイントの使用履歴というのはTカード専用サイトの「ポイント通帳」というページで確認できる。
それを思い出した僕は、急いでそのページへと向かったのだが...
「ん?なんだこりゃ?」
それは一昨日の日付で、貯まっていた1412ポイント全てが何かしらの買い物に消費されていることを示す一文が確かにあった。
だが何だこれは?どこのサイトの買い物だ?
そう思って購入先のリンクを押すと、ようやくここで僕は全てを理解した。
「あぁ、なるほど。姉の仕業だな...!」
リンク先には、それはそれはおしゃれな洋服ブランドのサイトが広がっていた。
というのもそう。
我が家は1つのYahooアカウントしか持っていないため、家族全員が同じアカウントでメールやらネットショッピングやらをしている。
つまり僕がYahoo Japanに登録していたTポイントはパスワードを知っている家族ならば全員が使える状況下にあり、しかし僕はそんな可能性など微塵も考慮せずにこれまで過ごしてきてしまったのだ。
だからもう、ポイントを勝手に使ってくれやがった姉への怒りは消えないものの、手放しで文句を言えた立場でもない。
そりゃ買い物するときによく分からないけど使えるポイントがありゃ誰だって使いますわ。当然ですわ。
これはね、僕の不注意が招いた結果でもあるのでいいでしょう。許します許します。
しかしなんなのだろうか、この気持ちは。
こう、楽しみにしていた映画を観終わったときのような、楽しかった旅行の帰り道の気分のような。
何となくだが、娘を嫁にやる父親の気持ちが少しだけ分かったような気がした。
これまで何十年も愛情かけて育ててきた娘が、いきなりどこの馬の骨とも分からん男に連れて行かれる。
それが彼女にとって幸せなのだとは分かりつつも、でもそんな仕打ちってどうなのさ、と。
あの男は色々考えて娘を幸せにしてくれるのだろうか。俺が愛情いっぱいに育てた娘を、彼は俺以上に愛してくれるのだろうか。
って、Tポイントにそこまでの執着はないんだけども。
まぁその後姉とは連絡が取れて「えっ?ごっめーーん!アンタがそんな頑張って貯めてたとか知らなかったからさー、ごめんごめん。今度会ったときちゃんと使ったポイント分は返すからさ、ねっ!」ということで話はまとまった。
だが我が姉よ、そうじゃないんだよ。
そりゃお金をくれるって言うならありがたく頂戴するけども、ポイントっていうのはそうじゃないんだよ。
何というかこう、お金じゃ測れない価値?みたいな?
・・・ごめんなんでもないわ。あ、今度またお金よろしくお願いしまーす。