お金がほしい

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2020年10月をもって更新をストップします。永らくのご愛読ありがとうございました。

初恋、そして思い出

突然だが、小学校高学年のころ僕には付き合っている彼女がいた。

まぁ付き合っているとは言っても所詮は小学生。
やること為すこと全て擬似恋愛体験のようなもので、手を繋ぐだけでドキドキしていたような、今思えば初々しくて何だか微笑ましい限り。

こんな僕にもちゃんとピュアな時代があったようでホッとする反面、あの頃もう少し様々な知識を身につけていればなぁと若干後悔もしていたのだが。

しかし今となってはただの思い出。
良くも悪くも、甘くも酸っぱくもないただの過去。

というのも、その彼女が最近結婚したという話を聞いたのだ。まさにback numberの歌詞のような展開。

しかし20代の僕が小学校の頃の想いをいまだ持ち続けているはずも無く、その話を聞いたときは素直に「へぇーそうなんだ良かったね。お幸せに」と思った。

彼女と僕は別々の中学校へ行き、その進路は小学校の時からお互い知っていたので「中学校が違うからお別れだね」と会話の上自然消滅のような形で僕たちは別れたのだが、正直小学校卒業時にはほとんど会話もしなくなり既に終わっていたようなものだったので実際いい区切りであった。

だから未練なんてこれっぽっちも、その後彼女のことを思い出すことも無く日々が過ぎていった。


それから本当に僕たちは一切連絡を取ることなく、中学2年の夏を迎えた。

僕はその頃、彼女とはまた別の小学校の同級生と偶然会う機会があった。
その同級生は彼女と同じ中学校に通っていて、その際「メールのやり取りをしないか」という相手側の誘いに乗って僕たちは電子文通をするようになった。

文章の内容は本当に些々たるもので、こちらの中学では今日体育祭があったとか、小学校のときのいじめっ子が今やクラス委員長になっているとか、その程度の日常を綴った文面が大半だった。

だがそうしてやり取りをしているうちに、ある日相手が衝撃的な内容の文を送ってきたのだ。

「そういえば○○(僕の名前)の元カノの△△がさ、体育館裏でクラスの男子と××していたところが先生に見つかって今停学処分中なんだよね~!(笑)」

メールを読みながら思わず「えっ!?」と声を漏らしてしまった。
ついでにその衝撃でちょっとだけ尿も漏らした。

「あの△△が? 2年前は僕の恋人だった△△がまさか青姦だと!?」
これは本当に驚いた。先に述べたように未練は無かったのでダメージは受けなかったが、予想以上にショックは大きかった。

マジで(笑)の範疇を越えてる。最近の中学生は怖いのだと、初めてその時思った。

というのもどうしてここまでショックが大きかったのかというと、おそらく僕が小学校の時彼女を好きになった理由がその「爽やかな雰囲気」にあったからだ。

彼女はそう、色で例えるならば「純白」だった。
清廉潔白。黒く長い髪は艶やかに、その笑顔は純真無垢。
単細胞だった僕はその穢れなき様に魅せられて彼女を好きになったのだ。

今思えば幻想を抱きすぎというか、文字を並べただけでちょっと気持ち悪いくらいだが、それでも卒業して1年ちょっとでこんなに人は変わってしまうのかと、初恋の思い入れがあっただけその衝撃は凄まじかった。


それから1年半。15歳の僕は高校生になった。
メールのやり取りをしていた相手とは受験勉強の時期に入ったあたりで連絡が途絶え、あとから聞いた話では他県の高校を受験して合格し、引っ越したのだそうだ。

一方の僕は中高一貫校であったので高校受験はせず、そのまま高校の進学コースに進んだ。


そうして高校生活が始まってどのくらいが経過しただろうか。

まだ春の匂いが微かに残る季節だったと思うが、部活動を終えた僕が下校しようと駐輪場に向かうと、そこには見覚えのある女生徒が3人で話している姿があった。

見覚えがあると言っても、すぐにピンと来たわけではない。
最初は特に気にしていなかったのだが、耳に入る会話の声がどうにも聞き覚えがあり、そしてふと見た女生徒の顔が間違いなく知り合いのそれであったのだ。

そう。彼女らは小学校の同級生で、その3人の中には例の元カノ(と言っていいのかは微妙だが)もいた。


というわけで僕は気付かぬふりをしてそそくさと帰ろうと思った。
いやいや当然だろう。小学校の同級生で、尚且つ女子なんて絶対関わり合いになりたくない。
正直その3人が僕と同じ高校に入学していたこと自体その時初めて知ったのだが、そんなことはどうでもいい。
一刻も早くその場から抜け出したかった。

のだが。

「あっ!○○(僕の名前)じゃん!」
こそこそしているところをそのうちの1人に見つかってしまった。一生の不覚。
だがこうなってしまえばもう無視するわけにはいかない。

自転車に跨りかけていた足をゆっくりと下ろして、僕は引きつる顔を隠しながらその3人のほうへ向かった。

「お、あれ、お久しぶり!まさか同じ高校だったとはね」

若干上擦った声で僕がそう言うと、

「え~すごい!声変わったね!」なんて言ってくる。

もうホントめんどくさい。早く帰りたい。男なんだから声くらい変わるだろ。

だがこちらから話を振ったならばもうワンラリーくらいは必要だと思い直した僕は、仕方なく「何か部活は入ったの?」なんて1ミリも興味の無いことを訊いてみる。

「あ~、あたしたちみんな園芸部に入ったんだよね~!そっちは?」
「あぁ、一応陸上部に」
「へぇ、そうなんだ。そういえば足速かったもんね」

もう頭の中は帰りたいという気持ちで埋まっていた。
てかウチの学校園芸部なんてあったのか。知らなかった。

「まぁ、じゃあそういう訳でバイバイ」
「え。あ、あぁ、じゃあね...」

いや、いきなり会話が飛躍しすぎだが、ともかく僕は限界だったのだ。

不自然とかつまらないヤツとか気持ち悪いとかどう思われてもいいから、一秒でも早くその場から立ち去るべくさよならを告げた。



そういえば「バイバイ」だなんて言葉、10年ぶりくらいに使った気がした。



帰りの自転車、家に着くまでの十数分で僕は彼女らのことを思い返していた。

小学生の頃ピュアだったはずの3人は全員が椿鬼奴のような厚化粧をしていて、その雰囲気から感じ取れる色は完全に「漆黒」であった。

しかし言ってみればピュアというのはつまり「透明色」
何色にでも簡単に染まることのできる存在で、だからこそ穢れやすくもある。

一般的によく言うケバい女子高生。
スカートは下着が見えそうなくらい短く髪は茶色で、純真さなんて随分と前に仕舞い込んだ押入れからも見つからないような、つまりは小学校の面影もクソもなかった。

そして僕の元カノ的立ち位置の女性は、思い起こす限りあの会話のとき一言も言葉を発していなかった気がする。


それ以降は彼女たちと学校で何度かすれ違うことはあったものの特別会話なんてすることはなく、気付けば高校を卒業。

その後の進路なんて当然知らなかったわけだが、ついこの間その彼女らと共通の友人と食事をする機会があり、そのとき彼女が結婚していたという話を聞いたのだ。


話の内容から察するにどうやらデキ婚らしい。
19歳の頃にはもう既に新しい命を宿していたとのことだが、まぁなんだ。

末永くお幸せにどうぞ。。。